“トム・クルーズ映画”の快作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
本作は上映前からガンガンにメイキング映像を出している。カーチェイスでは自分で車を運転して、走っている電車の上に本当に立って、そしてバイクでの大ジャンプと、崖でパラシュートを開く例のスタント。「死にますよ」と思わず観ているこちらが真顔になる撮影の連発だ。こうした死と隣り合わせの姿を見せることは、彼の尋常ならざる映画に臨む姿勢をより強烈に印象づけている。そしてトム・クルーズとイーサン・ハント、現実と映画、そんな二つの世界の境目を意図的に曖昧にしているのだ。いわば観客に「この人は人間じゃない、超人だ」と、幻想を抱かせているのである。それができるのが真のスターの証と言えるだろう。映画の中身以外も、映画の魅力として取り込んでいるというか。往年のアントニオ猪木が、リングの外で起きたゴタゴタや因縁や仕掛け、そして「最強」を巡る幻想をリングの中に持ち込んで、最終的に試合という形で観客を魅了してくれたようなものだ。
正直なところ、話が『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(2018年)よりもトッ散らかっており、意味深に見えるが実際に意味があるのか謎な会話も多い。続編に持ち越された要素を果たして消化できるのか、どう決着をつけるのか不安なのも正直なところだ。そんなわけで決して完璧とは言えない歪な映画だが、一方でスター映画としては100点満点だと言いたい。トム・クルーズの魅力、すなわち体を張りまくるガッツとサービス精神、それでいて天性のハンサムガイだけが持てる爽やかさ、そして還暦を過ぎても消えない少年のようなチャーミングさとユーモアが、この映画には十二分に詰まっている。本作をもって「トム・クルーズ映画」というジャンルに、新たな秀作が加わったと言えるだろう。
■公開情報
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
全国公開中
監督・脚本:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズ、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴィング・レイムス、ヴァネッサ・カービー、ヘンリー・ツェーニー、ヘイリー・アトウェル、ポム・クレメンティエフ、イーサイ・モラレス
配給:東和ピクチャーズ
原題:Mission: Impossible – DEAD RECKONING PART ONE
©2023 PARAMOUNT PICTURES.
公式サイト:missionimpossible.jp