トム・クルーズの“トムクル力”を堪能せよ! 『ミッション:インポッシブル』シリーズを総括
トム・クルーズ! 80年代に彗星のごとくデビューを果たし、今日もハリウッドの最前線でハンサムを振りまいているスター中のスターである。そんなトムクルさんの代表作といえば、新作を発表するたびに世界の度肝を抜く『ミッション:インポッシブル』、通称『M:I』シリーズだ。トムクルさん扮する超人的な身体能力とド根性を持つ凄腕スパイのイーサン・ハントが、世界の危機にあの手この手で解決するサスペンスアクション超大作だ。このたび嬉しいことに、同シリーズがAmazon Prime Videoで全作見放題になっており、今回はこの記念すべきタイミングに便乗して『M:I』シリーズの魅力を総括していきたい。本記事が『M:I』シリーズの、あるいはトムクルさんの入門テキストとなれば幸いだ。
エポックメイキングとなった天井宙吊り
まずは話を1980年代後半まで遡ろう。当時のトムクルさんは『卒業白書』(1983年)などの青春映画を経て、飛行機映画の金字塔『トップガン』(1986年)で大ブレイクを果たしていた(なお『トップガン2』が現在制作中である)。その後は『レインマン』(1988年)や『7月4日に生まれて』(1989年)でアカデミー主演男優賞にノミネートされるなど、ただのハンサムな兄ちゃんではない演技力を見せ、名実ともにトップスターへの階段を駆け上がっていた。そして迎えた90年代。トムクルさんは軍事法廷モノ『ア・フュー・グッドメン』(1992年)や、当時大流行したジャン・グリシャム原作の『ザ・ファーム 法律事務所』(1993年)といったサスペンス/ミステリー色の強い作品に立て続けに主演する。この流れに沿うような形で、往年の人気ドラマ『スパイ大作戦』をトムクルさんでリメイクしたのが全ての始まり、『ミッション:インポッシブル』(1996年)なのだが……本作には大きな問題点があった。原作のドラマと全然違ったのだ。
『スパイ大作戦』(1966年~)はアメリカで放送されたドラマシリーズであり、スパイ組織IMF(Impossible Missions Force)に所属する“チーム”の活躍を描くものだ。冷静なリーダーの下に、変装や機械いじりなど、様々なスキルを持ったメンバーが集結し、危険な任務に協力して立ち向かってゆく。一方、トムクルさんの『ミッション:インポッシブル』のあらすじはこうだ。IMFに所属する工作員イーサン・ハントは、ある任務のためにチームと共にプラハへ向かう。しかし任務中に謎の襲撃を受け、ハント以外は全滅(1人は顔面に鉄柱が突き刺さる!)。たった1人生き残ったハントはIMFから裏切りを疑われ、自身の潔白を証明するために孤軍奮闘するのだが、そのために集めたメンバーも腹に一物あるようで……という話だ。
もうお分かりだろう。原作はチーム戦がメインなのに、映画はチームが全員死んだ上に、疑心暗鬼の裏切り合戦になっているのだ。ほぼトムクルさんのワンマン映画になっており、原作世代である私の両親も「『スパイ大作戦』ってこんなんだっけ?」と首を傾げていたのを覚えている。しかし、それではアレな映画だったかというと、そんなことは全くない。たしかに原作ファンからは批判されたが、本作の監督はサスペンス界の巨匠ブライアン・デ・パルマ。裏切りが連発する本作にはピッタリの人選で、複雑なプロットを巧みにまとめあげている。アクション的にも「トンネル内で電車をヘリコプターが追いかける」というメチャクチャな見せ場を用意し、大いに盛り上げてくれた。
しかし何よりエポックメイキングだったのは、トムクルさんを天井から吊ったことだ。映画は中盤、何だかんだあってセンサーが張り巡らされた室内への侵入劇になる。ここでトムクルさんは天井からロープで吊られるのだが、ロープを握るジャン・レノがネズミに襲わる災難のせいで、あわやセンサーに……! 当時このシーンは様々な形でパロディにされ、いちやくスパイ映画を象徴するシーンとなった。原作と全然違うという歪な形ではあったが、ともかく同作は世界中で大ヒット。トムクルさんは新たな代表作をモノにした。この大ヒット後、トムクルさんは『ザ・エージェント』(1996年)で再びアカデミー主演男優賞候補に、『マグノリア』(1999年)ではアカデミー賞助演男優賞にノミネートされるなど、演技面で評価を高めていく。しかし、いずれも受賞はならず、その鬱憤が溜まったのか、再びトムクルさんはアクション映画業界に帰還する。奇跡の続編『M:Iー2』(2000年)を引っ提げて……。