『美味しいロマンス』『理性的な人生』 見始めたら止まらない中国お仕事ドラマの魅力
BSやCSのチャンネルで、近年、放送枠を増やしている中国ドラマ。韓流やタイに負けじと、じわじわとファン層を広げている。中国ならではのスケールの大きさで圧倒する歴史絵巻やファンタジーなど、華やかな時代劇が注目されがちだが、現代ドラマもなかなかどうして面白い。メディアが伝える情報からはイメージしにくい一般市民の生活や価値観など、中国社会の“今”が垣間見えるところが現代ドラマを観る醍醐味。配信サイトで視聴できるお仕事ドラマ2作を紹介しながら、その魅力を紹介していきたい。
『美味しいロマンス』
物語は2020年3月、中国で新型コロナウイルスが猛威を振るい、ステイホームを強いられていた頃から始まる。主人公は10代の頃から親友のアラサー女性3人。容姿に恵まれた芳欣(ファン・シン)は、子供の頃から常に男子たちの注目の的。優しい夫と結婚し、専業主婦をしながら、ライブコマースで化粧品などを売っている。
劉浄(リウ・ジン)は食へのこだわりが強くて料理上手。銀行のIT関連部門の職員だが、コロナ禍で暇になり、料理を作る様子をライブ動画で配信している。
夏夢(シア・モン)は自分の優秀さを誇示しては周りに煙たがられてしまうタイプ。大学時代からの恋人・王継沖(ワン・ジーチョン)だけは何でも出来過ぎる彼女を受け入れてくれる貴重な男性で、同じ職場に就職して同棲生活を送っていた。
ある日、ファン・シンは、夫がコロナの濃厚接触者になり、それがきっかけで彼の浮気に気づく。リウ・ジンはリストラに遭って無職に。シア・モンは部長に昇進。収入が恋人の倍になったことで、2人の関係に暗雲が立ち込める。彼女たちはピンチを乗り越え、自分たちなりの幸せを手に入れることができるのか……。
頑張りすぎて人生迷走中……30代女性の悩みに共感
個性の異なる女性たちが仕事や恋愛、家族との関係に悩みながら成長していく中国版『セックス・アンド・ザ・シティ』といった趣の本作。必ず誰かに共感ポイントが見つかるところがこの作品の面白さだ。リウ・ジンは、何かと物事の悪い面に目が行ってしまい、あれこれ悩んで人生迷走中。そんな彼女を心配する両親は、とにかく「結婚しろ」と口やかましい。「美人」とちやほやされてきたファン・シンにも、美人ゆえの悩みがある。浮気夫との離婚を決意して結婚前にいた職場に復帰するが、ブランクがあるうえ、クライアント受けがいい彼女に与えられる仕事といえばセクハラぎりぎりの“接待”ばかり。当然、同性の同僚からの受けは悪い。
優秀すぎるシア・モンも、実は「優秀」以外の自分の長所を見つけられないコンプレックスのかたまりだった。だから余計に仕事に精を出すのだが、そうすると恋人との溝はさらに広がってしまう……。三者三様の魅力を備えているのに、社会や家族、何より自分が作った「囲い」や「足かせ」に捕らわれて自分に自信が持てずにいる3人。彼女たちの悩みは、日本の同世代の女性たちと変わらない。
コロナ禍の暮らし、ドラマ制作の裏側など、お国事情も盛りだくさん
中国で本作が配信されたのは2021年11月で、コロナ禍での暮らしが盛り込まれている点も興味深い。たとえば、ファン・シンがやっているライブコマースは、コロナによる巣ごもり需要を受けて中国で急拡大した市場だ。リウ・ジンの料理のライブ配信も同様で、彼女に片想いする男性から高額な「投げ銭」が行なわれるなど、お国事情がよく分かる。
レストランの開業を考え始めるリウ・ジンの目を通して、コロナの直撃を受けた飲食店の苦境も浮かび上がる。食べ歩きで訪れるレストランの多くは「映え」を重視して味は二の次。「最近の料理人は手間をかけずに稼ぐため、とりあえず火鍋店を開く」など、中国の飲食業界事情がよく分かる描写やセリフも随所に登場する。
シア・モンの勤め先は動画制作会社で、ドラマ制作の企画会議や撮影の裏側がコミカルに描写されるのも楽しい。SNSでの「熱捜」(トレンドワード)入りを狙って、女優がファンに“神対応”する様子をマネージャーが動画に撮ったりするなど、芸能界を皮肉った描写も効いている。国境を越えて共感できるポイントと、お国事情がよく分かる中国ならではの描写。観ればきっと新鮮な驚きがあるはずだ。2023年には『美味しいロマンス』THE MOVIEとして劇場版も公開されている。