『美味しいロマンス』『理性的な人生』 見始めたら止まらない中国お仕事ドラマの魅力
『理性的な人生』
『美味しいロマンス』のリウ・ジンやファン・シンが転職や再就職で苦労するように、近年の中国は経済成長が鈍化し、就職難や雇用の減少が深刻化している。苦労しているのは30代以降だけではない。若者たちは新卒の時から厳しい現実に直面する。そんな現状を映し取ったドラマが『理性的な人生』だ。
キャリア女性と新卒男性の恋
舞台は大都市・上海。主人公の沈若歆(シェン・ルオシン)は、大手自動車メーカーの法務部主任。次期部長候補と目されているほど仕事ができる女性だが、彼女を疎ましく思っている上司と、同じポストを狙うライバルの嫌がらせで、未経験の総務部へ転属を命じられる。彼女の味方は、転属前に採用した補佐役の祁暁(チー・シャオ)だけ。大学を出たばかりのチー・シャオは、優秀なルオシンの下で働くうちに、どんな逆境にも負けないルオシンに年の差を超えて引かれていく。日本と同様、結婚率や出生率が低下の一途をたどっている中国。ルオシン自身は仕事一筋で結婚を焦る必要性を感じていないのだが、周りは黙っていてくれない。強烈な印象を残すのは、鬼気迫る形相で娘に結婚を迫るルオシンの母だ。自分を愛し、守ってくれる男性と結婚することが幸せへの道だと言い張り、娘の主張に耳を貸そうとしない。数多くの中国ドラマを観てきた筆者でも震えるほどのインパクトだ。
男性が多い自動車会社という職場で、キャリアを積み上げていこうと奮闘するルオシンの前に立ちはだかる壁も厚い。周囲に迎合しないルオシンの仕事ぶりが面白くない男性上司やライバルの嫌がらせに耐える日々。そんな彼女をあらゆる場面で支えてくれるのが、よく気がつく年下のチー・シャオだ。
世代間で異なる結婚観、仕事観の違い
このドラマで興味深いのは、中国の世代間ギャップと若者の描き方。ルオシンより一回り年下のチー・シャオは、シングルマザーで自分を育ててくれた母親に優しく、料理や裁縫もお手のもの。要領がよく、がつがつしたところのない今時の青年だ。チー・シャオの大学時代の同級生も2人登場する。在学中から同じ自動車会社にインターンとして勤めている女性ヨウ・スージアは、自分の働きが認められて正社員に採用されることを願っている。中国では学生時代からインターンで働くケースが多く、ドラマにもこの設定がよく登場する。
もう1人は漫画家志望のスー・ヤン。地方出身の彼は、あと1年で芽が出なければ実家に帰って公務員試験を受けろと親から迫られ、進路に悩んでいる。中国の若者を取り巻く現状は厳しい。北京の地元紙「新京報」によると今年6月の青年層(16~24歳)の失業率は21.3%と過去最悪の水準に。(※)就職難が深刻で、大卒でもなかなかまともな職にありつけない。そんな世の中に嫌気が指し、マイペースで淡泊なライフスタイルを目指す「佛系」や、競争社会を嫌う「寝そべり族」と呼ばれる若者が増えているという話は、日本でも報道されているので耳にしたことがあるという人もいるかもしれない。
本作のプロデューサー・王柔(ワン・ルオシュエン)は、日本の『家売るオンナ』(日本テレビ系)の中国リメイク版『安家 I WILL FIND YOU A BETTER HOME』も手がけ、リアリティを追求したドラマ作りに定評がある。よりよい将来のために努力してきたルオシンの世代、マイペースで消極的な若者世代、さらに保守的な親世代など、エリート女性と年下男性との甘い恋愛ドラマの裏に、異なる世代の価値観がうまく盛り込まれている。
SNSを駆使したビジネス戦略もドラマのエッセンス
また、劇中で描かれる日本と異なる商習慣も興味深い。SNSを使って行なわれる世論操作、企業の宣伝活動に欠かせない専門性の高いインフルエンサーKOL(Key Opinion Leade)の存在など、SNSが物語を動かす大事なツールになっていて、その影響力は日本のそれを遙かにしのぐことが分かる。
ドラマを観れば世相が分かる。今回は既に配信で視聴可能になっているお仕事ドラマをピックアップしたが、他にも中国ではサスペンス、捜査モノ、SF、学園ドラマなど、多岐にわたるジャンルの新作が続々制作されているので、興味を持った方はぜひ一度その世界をのぞいてみてほしい。
参考
※ https://www.bjnews.com.cn/detail/1689572886129962.html
■配信情報
『理性的な人生』
出演:チン・ラン、ワン・ホーディー、リー・ゾンハン
Netflixにて配信中
(写真はWeiboより)