『らんまん』命の誕生に集約させる長田脚本の見事さ すべてを“フラット”に描く真摯な姿勢
植物学の世界を通して、世界では否応なく様々な戦いが起こっていることを感じさせる物語だ。そのなかでなんとか戦わない方法を探そうとするそんな願いが込められたエピソードと、戦わない根拠としての命の大切さが、万太郎と寿恵子の子供の誕生に集約する。さらに、そこまでに、長屋で父とふたりで暮らす少女・小春(山本花帆)の存在にフォーカスが当たる。小春の母は、彼女を置いて出ていってしまったことは、第15週で描かれていた。その悲しみが、小春に、生まれることは母と切り離されることだと語らせる。自分が、父と母のかすがいにならなかったことを気にする小春に、寿恵子は、父・福治(池田鉄洋)は小春がいたから生きられたのかもしれないと希望を語る。
脚本がうますぎるほどうまいのは、小春の悩みは、同じ長屋の住人・ゆう(山谷花純)が婚家に産んだ子を置いていかざるを得なかった悲しみを間接的に救うことになって見えることだ。そして、寿恵子が産気づいたとき、ゆうと小春が一緒に出産準備のために働いている。子を失った母と、母を失った子が、新しく生まれる命のためにはつらつと行動する。
また、藤丸のつらい気持ちを癒やしてくれていたうさぎは、最初は1匹でいつの間にか2匹になり、そして3匹になっていた。おそらく、3匹目は子供ではないだろうか。週の序盤、万太郎と寿恵子の子供が生まれる前に、命の誕生が描かれていた。
単に、命の大切さを描くだけではない、戦いの虚しさを描くだけでもない、すべてが世界にフラットな事象として並んでいる。生まれたり、失ったりするなかで、我々は何を選び取るのだろうか。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK