『らんまん』命の誕生に集約させる長田脚本の見事さ すべてを“フラット”に描く真摯な姿勢

『らんまん』命の誕生に集約させる脚本は見事

 「この子の人生に、ありとあらゆる草花が咲き誇るように」と万太郎(神木隆之介)が生まれた子供につけた名前は、「園子」――。

 『らんまん』(NHK総合)第16週「コオロギラン」では、週の終わりの第80話で万太郎と寿恵子(浜辺美波)の子供・園子が誕生した。スミレ、ナズナ、ユキ、イカリ、シノブ、スギナ、リンドウ、レンゲ、ムラサキ、キキョウ、ハコベ……万太郎は植物採集で家を空けているが、出先から子供の名前に植物の名をつけようと、次々と思い浮かべ、どんな子供に育ってほしいか想いを馳せた手紙をしたためる。封筒にはその植物の絵まで描いて送ってくる万太郎。植物愛と人間愛が重なる秀逸な描写だった。

 余談ではあるが、出産の場でひとりあたふたしていた丈之助(山脇辰哉)が研究しているシェイクスピアの『ハムレット』では、ヒロイン・オフィーリアが植物の名前と花言葉を連ねる場面がある。それはとても悲しい場面なのだが、『らんまん』では、喜びの場面に花とその特徴が語られた。花言葉があるように花と人生は重なっている。

 だが、祝福に彩られた週末を迎えた第16週のはじまりは、いささか気が重いものであった。田邊教授(要潤)が進めていたトガクシソウの研究を、伊藤孝光(落合モトキ)が先んじて発表した。もともと、伊藤家が3代にわたって研究していたものを田邊が横入りしたという事情があるが、下剋上な感じで穏やかではない。大窪(今野浩喜)も「やられたらやり返すしかねえだろ」と物騒な言い方をする。

 東大植物学研究室は、日本のトップクラスの優秀な頭脳が集まった東大の名にかけて、成果を挙げなくてはいけない。植物研究の成果の奪い合いを目の当たりにした藤丸(前原瑞樹)は「こんなに執念深い人たちが世界中にひしめいていて」「誰が発見したって花は花じゃないですか」と心を痛める。

(左から)大窪昭三郎役・今野浩喜、徳永政市役・田中哲司、槙野万太郎役・神木隆之介、波多野泰久役・前原滉、藤丸次郎役・前原瑞樹

 上へ、上へと高みを目指す優秀な人たち。徳永(田中哲司)も「ひとりひとりが自分と戦う戦場なんだ」と自覚している。自分との戦いはいいが、結果、田邊と伊藤のように他者とも戦うことになる。それについていけなくなった藤丸は、オフィーリアほどではないながら、自分の置かれた状況を気に病み、大学を辞めることを考える。結果、休学して、万太郎の助手のようになる。妊娠した寿恵子は思うように動けないし、竹雄(志尊淳)もいない。その穴を藤丸が埋めることになったのだ。

 藤丸と同級生でコンビのように行動を共にしていた波多野(前原滉)は、藤丸が去ってひとりになってしまった。彼もどちらかといえば気弱で、藤丸と馬が合っていたようだが、藤丸と違って自分のテーマを追う執念は持っていた。もしかしたら、やさしさから藤丸につきあってあげていたのかもしれない。そこへ、田邊に万太郎のような植物図を描けと強要されて困り果てた画家・野宮朔太郎(亀田佳明)が現れる。

 波多野と野宮は共同作業をすることになる。戦わないためには、自分にしかできないことを見つけて追求していくしかない。野宮は万太郎が現れたとき、彼と自分の絵が求めるものは違っていたので、戦わずに済んだ。それを理解せず、同じようなものを描けと言う田邊は戦いを勧めているようなもの。でも、戦わない道を野宮は見つけたのだ。波多野もまた、万太郎が研究していない道を行く。こう思うと、優れた人は、なんでもかんでもと欲張らず、ほかの人に実を残すことも重要だなと感じる。

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