『THE IDOL』がオマージュした元ネタは? 最終話で明かされた“ダークなおとぎ話”の真相

『ジ・アイドル』がオマージュした元ネタは?

「ハリウッドはダークな場所だ。そのことが偉大な芸術を生む」

 ザ・ウィークエンドの言葉は、彼が製作、出演を務めたドラマ『THE IDOL/ジ・アイドル』を体現していた。(以下、ネタバレあり)

 女性ポップスターとカルト教祖的男性の「ハリウッドで一番不道徳なラブストーリー」。そう喧伝された『THE IDOL』は、始まる前からスキャンダルだった。制作現場の混乱が告発され、監督交代によって性的虐待を美化するような作風に変わったという噂が立ったのだ。カンヌ国際映画祭でプレミア公開されると、一時「Rotten Tomatoes」批評スコアが一桁となるほど酷評され、それもまた話題になった。

 作品として重要な情報は、監督交代によって、ミュージシャンを搾取する音楽業界のキャラクター群が追加されたことだろう。21世紀を代表するポップスターたるザ・ウィークエンドは、みずからの体験をシナリオに組み込むことを望んでいた。TikTokなどでのバイラルによって即座にレーベル契約する新米アーティストが増えている今、芸能界をサバイブしたスターが伝える「音楽業界は簡単に足を踏み入れてはいけないダークな場所だ」という警鐘。それこそ『THE IDOL』の意義だったのだ。

 BLACKPINKのジェニーやトロイ・シヴァンら音楽スターが出演した『THE IDOL』には、アメリカ式ポップミュージックのネタが満載だ。リリー=ローズ・デップ演じる主人公ジョスリンは人気子役からポップスターになったものの、母の死によりツアーを中断してしまい、キャリアの危機に瀕している。彼女を利用して金を稼ごうとする業界人たちは、ブリトニー・スピアーズを意識したセクシーな復帰シングル「World Class Sinner」に懸けている。ここで示唆されているのは、予告編に使われた2007年作「Gimme More」だろう。スキャンダルにより「キャリア終焉」の烙印を押されていたブリトニーに復活をもたらしたこの挑発的ヒットは、今やポップの神話と化している。つまり、劇中の業界人は、手垢のついたやり口で伝説の二番煎じを狙っているのだ。

 ジョスリンは様々なポップスターがミックスされたキャラクターだが、なかでも近いのは、ブリトニーと同じキッズアイドル出身の歌手、セレーナ・ゴメス。ドラマ序盤、入院患者用のリストバンドをつけて性的な写真を撮る場面は、ツアーを中断したセレーナが2017年にリリースした「Bad Liar」ビジュアルのオマージュだろう。ほかにも、母親がマネージャーでアシスタントが親友であることなど相似点はあるものの、基本的に、ジョスリンのキャリアは子役出身ポップスターの定番と言える。「子ども」、つまり半人前のポップスターというレッテルを貼られがちな彼女たちは「大人」、つまり一人前のミュージシャンであることを示すためにセクシーなイメージを打ちだすことが多い。

 新曲に不満を覚えるジョスリンに近づくのが、ザ・ウィークエンド演じる謎の男テドロス。ナイトクラブを経営する彼は、すぐに彼女と打ちとけ、信者たちと相手の豪邸に移住し、新曲を製作していくことになる。「彼の強姦魔っぽいところが好き」と語るジョスリンは、母親からの虐待被害を語るよう促され、ヘアブラシで受けてきた体罰を再現する暴力的な関係に溺れていく。

 良くも悪くもバズったのが、このテドロスだ。ザ・ウィークエンドの演技スキルへの揶揄が多かったものの「主人公がこんな男にすぐ夢中になるのは変」といった疑問も挙げられていた。一応、こうした反応は想定済みだっただろう。ショーランナーたちいわく、このキャラクターは大志を抱きながら何の才能もなく、自分の見た目を過度に気にして「カリスマ」の演技をしつづける憐れな道化だ。実際、セクシー歌手として前出のセレーナやアンジェリーナ・ジョリーと浮き名を流してきたザ・ウィークエンドは、テドロス役のため、あえてみすぼらしいビジュアルを仕立てている。

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