『王様に捧ぐ薬指』は最も“裏切られた”春ドラマに 秀逸だった作り手たちの“楽しむ力”

『王様に捧ぐ薬指』は“裏切られた”一作に

 春ドラマも軒並み最終回を迎え、「正直、期待ほど盛り上がらなかった」「途中で離脱した」と思う作品もそれぞれいろいろあったろう。

 その一方で、放送開始前、さらに第1話を観た時点でも全然期待が持てなかったにもかかわらず、回を重ねるごとにじわじわと面白くなっていった「舐めていてごめんなさい!」ドラマもある。

 橋本環奈×山田涼介出演のTBS火曜ドラマ『王様に捧ぐ薬指』(通称『王ささ』)だ。本作は、わたなべ志穂による同名人気漫画を原作に据え、大好きな家族を守るべく結婚を選んだ“ド貧乏シンデレラ”と、業績不振の結婚式場を建て直すため、好きでもない女との結婚を選んだ“ツンデレ御曹司”が繰り広げる胸キュンラブコメディ。

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 最初は、主人公・羽田綾華(橋本環奈)の「誰もが認める“絶世の美女”」「美人すぎるがゆえに周囲から誤解され妬まれることも多く、トラブルが絶えない人生を送って」きた設定に、ルッキズムが問題視される現代で大丈夫なのかと思った。綾華が働く「ラ・ブランシュ」のワンマン社長で従業員から「王様」と呼ばれるツンデレ御曹司・新田東郷(山田涼介)というキャラクターも、両者が「本当の恋を知らない」、愛は一切ナシの“メリット婚”“契約結婚”というベタな設定にも、先が読める展開にもそそられなかった。

 おまけに原作のビジュアルと異なる2人には、発表時から原作ファンの間で「イメージが全然違う」という指摘も相次ぎ、放送開始後には「ミッキーとミニーの結婚」と揶揄する声もあった。

 そもそもTBSの同枠で大ヒットとなった上白石萌音×佐藤健の『恋はつづくよどこまでも』(以下、『恋つづ』)から早3年。なかには『私の家政夫ナギサさん』のような話題作もあったが、押しなべて『恋つづ』後遺症がどこまでもつづくかのように、以降の火曜ドラマ作品には二匹目、三匹目のドジョウ狙いか、迷走気味のものが多かった。

 今となっては『重版出来!』や『逃げるは恥だが役に立つ』『カルテット』『義母と娘のブルース』『わたし、定時で帰ります。』などと同じ枠とは思えないほどで、一刻も早く『恋つづ』の呪縛から解放されてほしいと思っていた中での『王様に捧ぐ薬指』の登板である。

 ところが、「楽しみ方」を教えてくれたのは、SNSなど一般視聴者の声だった。人気者を起用している作品では、出来はともかく、SNSでトレンド入りするケースは多々あるが、それにしても予想以上に盛り上がっている。

王様に捧ぐ薬指

 綾華と東郷の恋愛には色気が全く感じられず、学芸会のようだと思っていたが、SNSの反応を見ると「顔が良すぎる」「美しすぎる」「画面が壊れる」「ずっと見てられる」と、2人のかわいさ・美しさをシンプルに愛でる声が圧倒的多数。そうした需要もあるのか……と眺めていたが、契約結婚から徐々に生まれる愛情、ライバルの登場と裏切り、誤解、裏で手を引く母との確執、“兄弟”の出現など、繰り広げられる展開がこれまた、実にベタ。

 だからこそ、回を重ねるごとに「なんだこれ」とじわじわ面白くなってきたり、登場人物たちが急にイチャイチャしたり、ツンツンしたりすることに「情緒、大丈夫か」と思ったりしながらも、知らず知らずのうちに、この世界の住人たちそれぞれに愛着が湧いてきた。それも「まあ、話はどっちでも良いんだけど、ネギ(犬)はかわいいからさ」などと言い訳しつつ、なんだかんだ楽しんでしまっているのである。

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