『aftersun/アフターサン』はなぜ多くの人の心に刺さるのか 森直人×奥浜レイラが語り合う

『aftersun』はなぜ心に刺さるのか

 映画の中での“親”であるカラムが実はセクシュアリティの悩みを抱えていたんじゃないかと思ったという森。そのことについてウェルズ監督に直接話を聞くと、「受け手の解釈が正解になる」と言いつつも、最初はカラムがセクシュアルマイノリティだという設定があったが、映画を作っていく中でその設定を消していく方向にシフトしていったことを明かしてくれたという。森はこのことに感銘を受けたといい、「もしかしたら僕は最初にあった設定の残り香をたまたまキャッチしてしまったのかもしれない。でもなぜそれを消していったかと言うと、それだけ受け手のほうに開かれた映画にするためっていうことですよね。送り手が固定した解釈で差し出すんじゃなくて、それを消していくって、すごい表現の仕方だなと思って」と、ウェルズ監督の表現方法を絶賛。

 一方の奥浜は、ウェルズ監督には直接聞かなかったというカラムの腕に巻かれたギプスについて言及。「会話の中では骨折したということが一応出てくるんですけど、なんで外そうとしているのか、明確な答えが特にないんですよね。これは私の解釈なんですけど、たとえば男性だったら男性らしさ、女性だったら女性らしさという社会規範を彼は押し付けられている。がんじがらめになって、生きづらさを感じているから、ギプスを外したいんだなって」と、ギプスが社会規範のメタファーなのではないかと自身の見解を述べた。

 森も「トキシックマスキュリニティっていう言葉がありますけど、そういったものの抑圧ですよね。#MeToo運動が2017年に起こってから急速に価値観が変わりつつあるけれども、20年前といまがどういうふうに重なるか、という問題は確かにありますよね。そこはすごく大きな主題だと思う」と同意し、カラムが感じていたであろう“親の役割・男の役割へのプレッシャー”についてもトークを展開した。

 最後に森は、「いまは“わかりやすさ”や“説明的”、“整合性”が重視され、『あのシーンってどういう意味だったの?』と答え合わせをする風潮がある。はっきり言って僕はそういう風潮が好きじゃない。表現ってそういうものではなく、作品によって受け手がどれだけ想像力を働かせられるかという相互作用。『aftersun/アフターサン』は、『これはこういう解釈です、それ以外はダメです』みたいな映画ではないから、刺さらない人もいると思いますけど、それは音楽も一緒。刺さらない人には刺さらない。それはそれでいいんです。そういう映画に、いまの日本でこれだけ素晴らしいお客さんが駆けつけてくれている状況は大変勇気づけられますし、いい時代になるんじゃないかと思います」とコメント。奥浜も続けて、「『aftersun/アフターサン』がヒットしたことによって、今後日本で上映される作品の道が開けた。“わかりやすさ”というところから“揺り戻し”がきて、こういう作品がちゃんとヒットするのはとても大切なこと」と締めくくり、会場からはあたたかい拍手が送られた。

■公開情報
『aftersun/アフターサン』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿ピカデリーほかにて全国公開中
監督・脚本:シャーロット・ウェルズ
出演:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ロールソン・ホール
プロデューサー:バリー・ジェンキンス
配給:ハピネットファントム・スタジオ
後援:ブリティッシュ・カウンシル
2022年/イギリス·アメリカ/カラー/ビスタ/5.1ch/101分/原題:aftersun/字幕翻訳:松浦美奈/映倫:G
©Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022
公式サイト:happinet-phantom.com/aftersun/
公式Twitter:https://twitter.com/aftersunjp

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