『らんまん』万太郎の異常なストイックさに周囲も困惑? 高知に捨ててきた“妥協”の2文字
そこで諦めるのではなく、自ら石版印刷の技術を習得し、納得できるものを作り上げようとするところに万太郎の異常なまでの執念を感じる。万太郎は実家を出たあの日、土佐に“妥協”の2文字を捨ててきたのだろう。「おまんは捨てたがじゃ。ほんなら振り返りな。かわりに何をするかじゃろう」というタキ(松坂慶子)の言葉が万太郎の心に刻まれている。家を捨てた万太郎は、代わりに自分の夢を追いかけることを選んだ。妥協したらそれこそ峰屋の人々に申し訳が立たないという思いが万太郎にはある。だからこそ、失礼を承知で大学が終わった夕方の6時から夜までという限定的な時間での修行を大畑とイチに頼み込む万太郎。授業料も払うという。それはもちろん、竹雄(志尊淳)の稼ぎから出るものだろうが、万太郎にとって今は手段を選んでいる場合ではない。なぜならいち早く目標を達成し、寿恵子を迎えに行く必要があるからだ。
――『愛する者なくして、誰が、たったひとり、生きられようか』
万太郎の面影を振り払おうとしてもできない寿恵子。
「…なんで来ないなんて言うの…?」#朝ドラらんまん #浜辺美波 pic.twitter.com/HZ0fPnaYA2
— 連続テレビ小説「らんまん」 (@asadora_nhk) June 5, 2023
その頃、しばらく万太郎が店に来れないことを知った寿恵子は寂しさを隠しきれないでいた。母のまつ(牧瀬里穂)にどういう関係なのかを問われても、説明できるほどにも万太郎のことをよく知らない寿恵子。「ただかる焼きを食べさせてあげたい」と語る寿恵子の頭の中で、<愛するものをなくして誰がたった一人生きられようか>と万太郎が意訳した西洋の音楽がリフレインする。すでに互いを想い合っているように見える2人が結ばれるのは、今のスピードではまだまだ先のように思えてしまう。そこに、忍び寄るのは妻がいながら寿恵子への想いを募らせる高藤(伊礼彼方)の影。宣言通り、できうる限りのスピードでひた走る万太郎の足元をすくうものがいないことを願う。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK