岸井ゆきの、満島ひかり、伊藤沙莉 物語に奥行きを与える“タクシー運転手”たち

岸井ゆきのら“タクシー運転手”俳優たち

 タクシーという空間の中で繰り広げられる、主に「運転手を聞き手に、乗客たちが語る人生の物語」あるいは両者のやりとりが、人々の人生の断片を映し出すことは、『パリタクシー』や『ナイト・オン・ザ・プラネット』などタクシーを舞台にした多くの優れた映画が証明している。そして、その乗客たちの物語を引き出す、言って見ればラジオのパーソナリティ的な役割を持ち、なおかつ彼らの人生の物語を特等席で見つめることができる唯一の「観客」とも言える「タクシー運転手」。彼ら彼女たちが、乗客たちの物語に拮抗し得るぐらいの濃密な人生の物語を内に秘めている人物であると、作品はより一層深みを増す(だが、『日曜の夜ぐらいは...』においてそういった本来の役割を乗客に悉く拒まれ続ける翔子は、その役割すら社会に奪われているとも言える)。また、同時に、映画・ドラマを観ている「観客」が最も親しみを感じ、共鳴せずにはいられない存在であること。

『First Love初恋』Netflix独占配信中

 例えば『First Love 初恋』(Netflix)においてタクシー運転手を演じる満島ひかりが「いいことあった時と嫌なことあった時は、食べていいことにしてる」かはたれ時のアイスクリーム。煙草を吸う姿が魅力的な『ナイト・オン・ザ・プラネット』のウィノナ・ライダーは、「運転手だけで終わる気はないわ」と言いつつ、映画スターになれる可能性を蹴って整備工の夢を見る。彼女に憧れる伊藤沙莉演じる『ちょっと思い出しただけ』のタクシー運転手は、恋人と共に戯れにその台詞を真似て、彼女の人生を自分の人生に添わせる。タクシーではないが「運転手」と言えば『ドライブ・マイ・カー』の三浦透子の佇まいも忘れがたい。誰もがしっかりと地に足をつけ、毎日をひたむきに生きている。それはまるで、仄暗いかはたれ時に今はただ佇んで、やがて飛び立つ朝を待っているかのようにも見える。

 そして、そんな魅力的な人物を演じることのできる俳優は、それだけ演技に生身の人間としてのリアリティを伴わせることのできる優れた俳優に他ならない。佇まいだけでその人物の人となり、生活、人生を容易に想像させることに長けた実に魅力的な俳優たち。映画やドラマというフィクションの中で、私たちが明日から生きていく糧となる、ひとかけらの真実を見せてくれる俳優。『ケイコ 目を澄ませて』において余すところなくその力を発揮した岸井ゆきのが、『日曜の夜ぐらいは...』においてタクシー運転手としてそこにいることは、「日曜の夜」の奇跡であるとも言えるのである。

■放送情報
『日曜の夜ぐらいは...』
ABCテレビ・テレビ朝日系にて、毎週日曜22:00〜放送
出演:清野菜名、岸井ゆきの、生見愛瑠、岡山天音、川村壱馬(THE RAMPAGE)、やついいちろう(エレキコミック)、今立進(エレキコミック)、椿鬼奴、飛永翼(ラバーガール)、橋本じゅん、和久井映見、宮本信子ほか
脚本:岡田惠和
演出:新城毅彦、朝比奈陽子、高橋由妃、中村圭良
企画・プロデュース:清水一幸
プロデューサー    山崎宏太、山口正紘、郷田悠(FCC)、浅野澄美(FCC)
制作協力:FCC
制作著作:ABCテレビ
©︎ABCテレビ
公式サイト:https://www.asahi.co.jp/drama_22_abctv/
公式Twitter:@nichigura_abc
公式Instagram:@nichigura_abc

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