綾瀬はるか×長澤まさみ×夏帆×広瀬すず、奇跡の四姉妹の“いま”が刻まれていた『海街diary』

『海街diary』が放つドキュメンタリー性

 是枝裕和監督の最新映画『怪物』の公開を記念して、『海街diary』が6月3日21時からフジテレビ系『土曜プレミアム』で放送される。

 吉田秋生の同名漫画(小学館)を2015年に映画化した本作は、鎌倉を舞台にした四姉妹の話だ。家族を捨てて出て行った父親の葬儀に参列した香田幸(綾瀬はるか)、佳乃(長澤まさみ)、千佳(夏帆)は、異母妹の浅野すず(広瀬すず)と対面する。すずの母親はすでに亡くなっており、現在の母親は再々婚相手。浅野家で孤立した立場にあることを察した幸が、鎌倉で4人でいっしょに暮らさないかと別れる間際に提案すると、すずは「行きます」と答える。

 本作は鎌倉で暮らす四姉妹の日常を追う静かな映画で、初めは遠慮がちだったすずが、幸田家の姉妹として馴染んでいく様子を淡々と描いている。家族を捨てた父が不倫相手との間に生んだ異母妹を、香田家の3人がどう受け入れるか? という問題は描き方によっては、是枝監督が得意とする濃密な家族の物語と成り得ただろうが、そこはあえてあまり踏み込まずあっさりと描いている。逆に強く打ち出されているのが、鎌倉で暮らす四姉妹の日常の心地よさだ。

 当時はもちろん、今の視点で見ても奇跡のキャスティングと言える香田四姉妹の美しい佇まいと、風情のある鎌倉の風景、そしてアジフライ、しらすトースト、梅酒といった美味しそうな料理が「これでもか!」と映される本作は、物語的には深夜に放送されているグルメドラマや女子高生が趣味に没頭する姿を楽しく描いた美少女アニメと大差がないのだが、是枝監督の手にかかると、ここまで美しい映画になってしまうのかと、演出力の高さに驚かされた。

 何より見事だったのは、香田四姉妹の見事な配役である。長女の幸を演じるのは綾瀬はるか。当時の綾瀬はドラマ『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)などで見せたコメディエンヌとしての明るいイメージが強かったため、当初、是枝監督は次女のイメージで考えていたが彼女の別の顔を撮りたいと思い、しっかり者の長女役に起用。その試みは見事成功し、彼女の新境地となった。

 次女の佳乃を演じる長澤まさみは、是枝監督曰くエロス担当とのこと。本作は薄着の佳乃が恋人の藤井(坂口健太郎)と寝ている場面から始まるのだが、劇中では肌の露出の多い服装が多く、おおらかで健康な色気が映画に花を添えていた。2013年に公開された映画『モテキ』のヒロインに続く、大人の長澤まさみである。

 三女の千佳を演じる夏帆は、清純派アイドル女優として評価された10代を経て、様々な役を演じることで女優としての幅を広げようと模索していた時期だった。本作ではマイペースな千佳を好演しており、どんな役でも自由に演じこなす現在の夏帆の片鱗が見える。

 そして四女の浅野すずを演じたのが広瀬すず。映画やドラマにはすでにいくつか出演していたのだが、本作の広瀬すずは初々しく、作為のない表情が素晴らしい。是枝裕和は、子供を撮ることに定評のある映画監督として知られており、『誰も知らない』の柳楽優弥を筆頭に、子役時代に是枝監督の現場を経験したことで大きく飛躍した俳優は多く、広瀬すずも間違いなくその一人だろう。

 現場では広瀬のみ台本なしで撮影したそうだが、この撮影は是枝が子役の自然な表情を引き出す際に用いるドキュメンタリー的な手法である。名前が同じ“すず”だったことも功を奏しており、役と本人がきれいにシンクロしている。その意味で本作は、すずが香田家に馴染んでいく姿をドキュメンタリータッチで描いた物語であると同時に、あの瞬間にしかない広瀬すずの魅力が刻印されたドキュメンタリー映画にも観える。

 俳優がきれいに撮れてさえいれば映画は成立するとよく言われるが、この四人を魅力的に撮れたことこそが本作最大の功績である。

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