『合理的にあり得ない』が試みるドラマの笑い 真実を知った松下洸平の涙
知らない人が来ていきなり壁紙をはがしたら建造物損壊罪にあたる。破天荒な熱血教師が生徒の家の壁を壊しても同様だ。器物損壊と違って非親告罪なので、見つかれば罪に問われる可能性がある。ドラマの中だから許されることだ。
常識であり得ない壁を破壊する『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』(カンテレ・フジテレビ系)第6話では、偶然と運命に導かれるように、因縁の相手へのリベンジの機会が巡ってきた。
第6話の依頼主は夫を亡くした妻・野崎多香子(野村麻純)。線路に転落して亡くなった夫の死の真相を知りたいと話す。野崎が死ぬ間際に「殺される」と言った相手は、勤務先だった八雲建設社長の八雲治(浅野和之)。八雲が外務副大臣の増本(石黒賢)と懇意にしていると知った涼子(天海祐希)と貴山(松下洸平)は、増本の事務所に潜入する。
昏睡状態の父を手にかける前話の衝撃的なラストシーンからさかのぼること数年、アメリカ留学中の貴山は、母と妹が火事で死んだと知らされた。放火犯は父・勇作(小林隆)で、勇作自身も火事に巻き込まれて植物状態になっていた。勇作の治療費を肩代わりした貴山は、鬱屈とした思いを抱えて日々を過ごしていた。
なぜ父は自分を残して家族を殺し、沈黙してしまったのか。生きているから言えることがあるのに、黙っていては何もわからない。不条理に耐えながら、理不尽さを物言わぬ父親にぶつけるしかない不甲斐なさ。父への憎悪はいつしか殺意に変わっていた。
権力の寓意であり、真実が塗りこめられた壁は、その内部にいる者を守る。被害者がホームから突き落とされても守りたかったものは、壁の内側で暮らす愛しき者の未来だったに違いない。真実を知った貴山の目からこぼれる涙は、信じる心のありかを指し示していた。それにしても、人の命がなんと安く取引されるものか。たかだか数億の金を懐に入れるために、社員や未来ある官僚を死に至らしめるなら、狂っているとしか言いようがない。