『合理的にあり得ない』天海祐希VS水野美紀が再び フィクションを成立させる演出の妙

『合理的にあり得ない』演出の妙

 複雑なプロットを取捨選択して、ドラマ的な見せ場に再構成した脚本の冴えもさることながら、ゆるいのにゆるみきっていない絶妙なテンション、シリアスかつユーモラスな調子を行きわたらせる演出も光っている。カンテレ制作枠は刑事ドラマや医療ドラマの定型を踏襲した作品から、作家性が前面に出た“尖った”作品まで振れ幅が大きい。オーソドックスな作りの本作は、長年培ったドラマ作りのノウハウが発揮されているとみることができる。

 秘密と嘘はサスペンスの王道だ。リアリティの限界に挑むような第5話ではひそかに復讐が進行し、偽りの仮面がトリックによってはがされた。とどめの一言も決まっていた。「復讐しようなんて気持ちは捨てなさい。憎しみを抱いたまま生きるのは辛くなるだけよ」。復讐の炎に身を焦がすことを否定する当の本人が、理由もわからないまま立場を追われている事実に気付いた瞬間、単なるきれいごとで済まされなくなる。

 現実の世界で法律家は強者の味方で、見返りなく弱者を助ける人間は皆無に等しい。涼子のような存在はいつの世にも求められてきた。唯一の難点は、自己弁護をしないせいか、この手の人が誤解されやすいこと。実在しても、はたして会えるかどうか怪しいところだ。限りなくフィクションに近い本作で、私たちのあり得ない願望を体現しているのが上水流涼子なのである。

■放送情報
『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
出演:天海祐希、松下洸平、白石聖、中川大輔、丸山智己、仲村トオルほか
原作:柚月裕子『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』(講談社文庫)
脚本:根本ノンジ
演出:光野道夫、二宮崇、倉木義典
プロデューサー:萩原崇、清家優輝
音楽:眞鍋昭大
制作協力:ファインエンターテインメント
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト: https://www.ktv.jp/arienai/
公式Twitter:https://twitter.com/arienai_g
公式Instagram:https://www.instagram.com/arienai_g/

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