アイドルを応援することは“呪い”なのか 『劇場版 推し武道』に詰まった愛しさと切なさ
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、笑顔と歌声で世界を照らし出された石井が『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』をプッシュします。
『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』
現在大ヒット放送中のアニメ『【推しの子】』をはじめ、芥川賞受賞作の『推し、燃ゆ』、NHKドラマ『だから私は推しました』など、創作物のタイトルにもなっているように、すっかり世の中に浸透した「推し」。
「大好き」や「〜ファン」とも絶妙に違う、対象に対する愛情と敬意が入り混じった独特の感情。当サイトでも執筆してくださっている横川良明さん著『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)も話題になったように、対象はなんであれ、いまを生きていく上で「推し」は現代人にとって欠かせないものとなっています。
そんな「推し」についての映画が『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』。平尾アウリによる漫画から始まり、アニメ化、連続ドラマ化を経て、連続ドラマのキャストたちをそのままに映画化したのが本作となります。
劇場版だからと言って、原作を読まなくてはいけない、ドラマを観ていないとわからない、という作品ではまったくありません。冒頭から主人公・えりぴよ(松村沙友理)がどんなキャラクターなのか、劇中に登場するChamJam(チャムジャム)がどんなグループなのか、そしてえりぴよが人生をかけて推している舞菜(伊礼姫奈)はどんなアイドルなのか、しっかりと解説してくれることもあり、いきなり本作に触れても問題ない親切設計になっています。
岡山のローカル地下アイドルであるChamJamが、東京で路上ライブを行うことによって生まれていく小さな変化。本作では、「推す」側のえりぴよというよりは、「推される」側の舞菜の葛藤が物語の軸となっています。
えりぴよは舞菜の存在によって、毎日が楽しくなり、推し仲間もできて、バイト先のパン屋でもヒット商品を開発するなど幸せな日々。一方の舞菜も、自分に愛を注ぎ込んでくれるえりぴよの存在もあり、少しずつ成長。互いに幸せな関係ではあるのですが、だからこそ、そこには危うさもあります。もし、片方の存在があるときなくなってしまったら……。