前田旺志郎、いつから名バイプレイヤーに? 『Dr.チョコレート』お笑い役に繋がる“芸風”
明るくてまっすぐでまっとう、いろいろな意味で私たちの隣に普通に暮らしていそうな気がする男子をいつも好演しているのが、俳優・前田旺志郎だ。知っている人もいると思うが、兄弟漫才師まえだまえだのボケ担当として、史上最年少で『M-1グランプリ』準決勝に進出した稀有な経験を持つ。
3月に最終回を迎えたばかりの『女神の教室〜リーガル青春白書〜』(フジテレビ系)で、法律家を目指す仲間たちの中でもひときわ“いいやつ”感全開のムードメーカー、桐矢純平を演じていたのが彼だ。
成績は下位だけど、初めのうちはピリピリしがちで協力的じゃないクラスメートたちの中で、一番素直で普通にコミュニケーションを取ろうとするキャラクターがリアルだった。仲間の迷いや悩みを一緒に考え、自身も人を裁くことの重さに一度はおびえながらも成長していく桐矢は、放送中にファンを増やしていった。
が、筆者は彼が兄弟漫才で有名になった子だとわかっていなかった。わかった時には「え? あ、あのまえだまえだの弟か!」と思わず膝を打ってしまうような新鮮な驚きがあった。気づかぬうちに、テレビドラマはすでに50本以上に出演、大河ドラマにも朝ドラにも出演済み、映画や舞台もかなりの数をこなしているという、本格的な俳優に成長していたのだ。芸歴で言えばすでにベテラン俳優だ。
気づかぬうちにと書いたが、子役として2005年頃からドラマに出演しているのだから、彼の出演作は結構観ていた。また、2017年の『カルテット』(TBS系)、2019年の『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(フジテレビ系)、2020年の『MIU404』(TBS系)など、人気ドラマへの1話だけのゲスト出演も多い。
中でも筆者には、2022年放送の『婚活探偵』(テレビ東京・BSテレ東)で演じた八神旬役の印象が強い。向井理演じる探偵・黒崎竜司の探偵事務所に在籍する、黒崎の同僚役だ。八神は、令和の時代にありえないくらいハードボイルド風をふかしている黒崎に憧れている弟分的な役どころ。黒崎の一挙手一投足に、「かっけぇ~!」「渋いっすね〜」と盲目的に憧れている。寡黙な黒崎をカバーするかのように口数が多く、見た目の凸凹感も含めてコンビのいい空気を作り出していた。
そして憧れてもいるけれど、ドラマ中盤からは、どちらかというと黒崎を温かく見守っているような包容力をも醸し出していた。
最近の作品では、『拾われた男』(ディズニープラス)で、仲野太賀演じる松戸諭が働いているTATSUYA渋谷店のバイト仲間・中田を演じた。しかも、関西出身でお笑い芸人志望の若者という、当て書きとも思えるキャラクター。松戸が思いを寄せていたバイト仲間の田畑(松本穂香)を、実はしれっと射止めていたという意外な実力者だった。
出演作では数名のグループの中の明るいムードメーカー的な役柄が多いが、もちろんそうではないキャラクターも演じている。
2021年の映画『キネマの神様』では、沢田研二演じる酒と競馬しかやらないダメダメなおじいちゃん・ゴウ(円山郷直)の孫、円山勇太を演じた。口数少なくやや引きこもり気味だが、ゴウが昔書いた脚本の面白さを見抜き、脚本賞に応募するモチベーションを引き出すという重要な役回り。本人は「難しかった」と語っているが、訥々とした喋りできちんとダメ祖父の相手をする様子が微笑ましかった。