『あなたがしてくれなくても』の先にあるものは? “悪者”がいないからこそのもどかしさ
「もう落ちてしまった」と驚かされた『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)。第1話から、4人それぞれに抱える思いを感じさせ続ける本作は、これがドラマという絵空事だからこそ、みんなが幸せになれる道はないかと模索させる。特に陽一(永山瑛太)を“クズ”、楓(田中みな実)を“冷たい女”と、拒否している側を単純に切り捨ててしまいたくないと。第3話では、そんな陽一と楓のモノローグが綴られた。同時に、ついに2組の夫婦のほころびが表面に見え始めた。
互いに惹かれ合い、好きで結婚したはずなのに、4人は求めているものがそれぞれ違う。夫・陽一とのセックスレスに悩んでいたみち(奈緒)は、陽一が花束をプレゼントしてくれた夜、久しぶりに体を重ねた。念願だったはずの行為。しかしその感触に、むしろはっきりと、そこに愛がないと感じてしまう。
みちの上司の誠(岩田剛典)は、自分の夢に向かって働く妻・楓をずっと支えてきたけれど、やはりセックスレスに悩み、身体の奥で涙を流し続けてきた。自分自身、見ないふりをしてきたが、みちと悩みを共有したことで苦しみを自覚してしまう。そして結婚記念日のあと、自分の涙でおぼれるような状態のなか作ったペンネも放置され、限界を超えてしまった。
そんなときにみちの前には誠が、誠の前にはみちがいた。ズル休みをしたふたりは、車の中で、優しいキスをする。陽一も結衣花(さとうほなみ)と体の関係になってしまったものの、結衣花には悪いが、陽一はみちを大切に思っていることに変化はなく、みちと誠、陽一と結衣花の行為の意味合いは異なる。
さて、そもそもみちと誠を近づけた原因となったのは、陽一と楓が拒否し続けたことによる“レス問題”だが、彼らが言う「セックスってそんなに大事?」はとても大きなテーマだ。愛情がないわけではなく、その行為が大事ではない人がいるのは事実。むしろ苦痛の人だっている。
陽一はみちを愛している。みち本人にも「大切に思っている」ときちんと伝えているし、本音を語るモノローグでも、そう口にしている。ただ、陽一が好きなみちの姿に「裸のみち」はいない。陽一が「俺、EDかも」とみちに告げたとき、みちは“下手なウソ”と断定した。でも陽一は陽一で、“妻だけED”とキャッチの載る雑誌に目を向けたり、ED治療をうたう泌尿器科の看板に視線がいったり、結衣花の「いけないんですか?」との言葉を誤解して敏感に反応したりと、大切に思っているみちに欲情しないことが、みちを傷つけていることにうしろめたさを感じている。
また、みちは陽一の心がもう自分にないと言うが、ふたりの年月が刻まれたキーケースと似た品を、みちが大切にしていたと感じたから、わざわざ新たに探し出してプレゼントした(ビールの値段でさえ気にする人なのに)。オムライスを自分だけ先に食べてさっさとお風呂に行ってしまったときの「(失敗を)気にすんなよ、食べたら一緒だよ」は、みちが失敗したほうを自分で食べているのを分かったうえでの、あくまでも陽一なりの多少の気遣いだろうし、「ゆっくり食べなよ」も、ひとりにしてしまうとは考えておらず、きっと言葉そのままの意味で言っている。ただし、配慮がないのは間違いなく、一緒にいるのが楽しくて、心が繋がっていたいなら、自分の性格を理由に相手を傷つけ続けていいわけじゃない。ただ、陽一の心がみちに向いていないわけではないのも事実。クライマックス、風邪をひいたみちのもとにバイクを走らせる陽一の姿は、罪悪感からではなく、ただ純粋に、自分にとって本当に大切な相手がみちだからに見えた。