『あなたがしてくれなくても』“セックス”の向こう側にある“慈しみ” 優しいキスの先には?

『あなたがしてくれなくても』の人気の高さ

 セックスレスをテーマにした木曜劇場『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)。放送開始前には検索欄に「気まずい」とサジェストされるなど賛否両論を巻き起こしていたが、フタを開ければ第1話の見逃し配信が346万再生(4月13日〜4月20日)を獲得。初回見逃し配信の記録としては『silent』に次ぐ木曜劇場史上2位の勢いだという。(※1)

 誰かと観るのは気まずいけれど、1人でこっそり見届けたい。そんな視聴者の心をガッツリと掴む……いや、ザックリと抉っていく本作。第3話は、いよいよドロドロとした湿度の高い展開になってきた。

 みち(奈緒)は、夫の陽一(永山瑛太)からの唐突な花束のプレゼント、そして2年ぶりにベッドに押し倒されたことに喜びながらも、どこか違和感を抱いていた。「セックスをすれば満たされると思っていた」と、表情は優れない。陽一の眼差しはかつて恋人時代に体を重ねていたときのような愛情溢れるものではなく、どこか気まずさが漂っていたのだ。それもそのはず、この優しさは陽一が結衣花(さとうほなみ)と衝動的にキスをしてしまったことへの罪悪感なのだから。

 陽一はみちを「愛している」と言う。セックスをしなくても心が通じ合っているし、触れ合わなくても一緒に過ごす時間が楽しくて好きだ、と。そして、いつまでも恋人時代のようにはいかない、とも。もちろん結婚をして生活を共にすれば、恋人とはまた違った距離感になる。トイレにこもっていれば「うんこ?」なんて平気で言い合えてしまうし、靴下を嗅いで「くさいよ」なんて言ってしまうことも。

 しかし、距離が縮まることと、相手を愛しく思う感情がすり減るのは、必ずしもイコールではないはず。キレイに焼けたオムライスを陽一のお皿に盛りつけ、焦げすぎてしまった分を自分用にしたみちを、以前なら、そんなみちのことをいじらしいと感じていたのではないか。

 一緒に「いただきます」をして、卵を焼く失敗話を共に笑い合い、タイミングを合わせて「ごちそうさま」をする。きっと、そんな愛されていることを感じられる日常が続いていれば、みちもセックスがなくても満ち足りていたように思う。

 みちは、セックスをすれば、“まだ”愛されていると実感できるはずだと期待していた。だが、陽一は愛していなくてもセックスができる。むしろ、愛していないからこそ最後までできるのだ。「妻だけED」なのではないかという不安を確かめるかのように、結衣花とセックスをしてしまった陽一。そんな自分に「反吐が出る」と言いながらも、オーナーの高坂仁(宇野祥平)から「お前なんか変わったよな」と言われるくらい、陽一のメンタルに妙な安定感が生まれている気も……。

 誰かを傷つけることで、行き場のなかった感情を処理できることがある。何かうまくいかないことがあったとき、自分の中だけでなんとかしようとすればするほど余裕がなくなり、本当は大事にしたいのに冷たい言葉や態度で傷つけてしまうのだ。そして、相手をとことん傷つけ、「もうついていけない」というところまで追い詰めて、ようやく優しくできる。そんな自分勝手な子供っぽい自分を情けないと思いながらも、その悪いクセがやめられないという大人も少なくない。

 誠(岩田剛典)の妻・楓(田中みな実)も、そのひとりだ。キャリアに関する漠然とした不安や多忙を極める日々への鬱憤を、誠にぶつけてきた。でも、誠もそろそろ限界を迎えている。本来であれば、妻に寄り添ってもらいたいところを、むしろ妻によって追い詰められる。その痛みを包み込んでくれるみちに惹かれてしまうのは、自然なことだったのかもしれない。

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