クリス・エヴァンス×アナ・デ・アルマス『ゴーステッド Ghosted』が描いた理想的な男女関係

『ゴーステッド』が描いた理想的な男女関係

 常軌を逸したストーカーなのか、ロマンティックで純真な男なのか……。どちらともいえる絶妙なラインを、コールは進んでいく。だが、行動を起こしたことによって彼は、セイディの正体が凄腕のCIAエージェント、コードネーム“ローズ”であることを知り、彼女を取り巻く世界的な陰謀と戦いに巻き込まれていくという、現実離れした事態に巻き込まれる。この辺りは、まさに『ナイト&デイ』(2010年)の男女の関係をひっくり返したような構造である。

 そこからの見せ場は、いかにもハリウッド映画的な、アルマスとエヴァンスの軽快な掛け合いとアクションに転じていく。誰もが知る新旧のヒット曲をBGMにしているのは、あまりスマートな演出とはいえないものの、襲いくる敵を冷静に撃ち倒していくエージェント・ローズと、銃を渡されながらも「人なんか撃ったことないんだよ!」と、半泣きで彼女についていく情けないエヴァンスの姿がほほえましい。また、ユーモアの効いた豪華なカメオ出演の数々も楽しいといえる。

 そんな危機また危機の状況に辟易しているはずのコールが、艶やかな黒のドレスを着て颯爽と現れるセイディを目にすると、生き返ったかのように思わず息を呑んでしまう。やはり本作の特徴は、女性に対して精神的に依存してしまう男性と、あくまでパートナーを人生の一部と考え、自分の道を進んでいく女性の姿を見せていくところにある。

 アクション映画は、主に男性スターたちばかりが取り沙汰されてきた時代が長かった。また恋愛映画においても、強引な男性のリードに女性がときめくという演出が少なくなかった。観客の多くはそこにこそロマンを感じていたものだったが、それは現実の社会で、従来の理想的な男性像、女性像のイメージの固定化を強化する作用があったように思われる。そしてそれは、そうなれなかったり、なりたくないと考える女性や男性に対して、常に息苦しさを与えてきたところがある。

 そういったイメージを打破する映画は、本作ばかりではないが、男性が従来の男らしさの重圧から解放され、女性がパートナーに左右されず能動的に自分の生き方を選んでいく姿を、憧れの対象である当代のスター俳優たちが演じてくれることは、これからの観客にとって救いになり得るのではないだろうか。

 そして、そんな二人の役柄が、クライマックスではともに目の前の事態に対して協力し合い、ラストシーンでは対等な関係として並んで歩く。これは、これからの男女関係の理想的な一つのケースを、物語上でも視覚的にも表現したものだといえるだろう。

■配信情報
『ゴーステッド Ghosted』
Apple TV+にて配信中
出演:クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス、エイドリアン・ブロディ
監督:デクスター・フレッチャー
画像提供:Apple TV+

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