『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ヒットの鍵に? 3人のボンドウーマンが誘った共感
007役であるダニエル・クレイグのボンド最終章となった『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』。公開が1年遅れたにもかかわらず世界的なヒットとなったが、フェミニズムと多様性の時代に生まれた『007』としても革新的な作品で、ボンドをめぐる女たちもこれまで以上にリアルで共感できる存在になっている。
プロデューサーも脚本家も女性が担当 よりリアルになったボンドウーマン
「この映画からボンドガールがボンドウーマンに変わったのは自然なことよ。だって、60年代のボンド映画と今では社会が違うもの」と語るのは、本作の凄腕プロデューサー、バーバラ・ブロッコリだ。彼女の指揮で、“男の欲望の対象”だった「ボンドガール」は、“男と対等な存在”である「ボンドウーマン」に名称を変えられた。また映画に登場する3人のボンドウーマンの1人を、ボンドと同じ「007」の称号もつエージェントにしている。
また製作面でも女性パワーが強化された。筆頭は何といっても、主役のダニエル・クレイグ自身が脚本のテコ入れに引き抜いたフィービー・ウォーラー=ブリッジだろう。バーバラの友人でもあり、『フリーバッグ』『キリング・イヴ/Killing Eve』の脚本でドラマ界にセンセーションを巻き起こした彼女。今回、ボンドをめぐる女たちに「自立した働く女性」という要素を取り入れ、従来のファンタジー路線ではなく、女性が観ても納得できる親しみやすい存在に再構築した。そんな新時代のボンドウーマンたちの魅力を振り返ってみたい。
誘惑に興味なし? 仕事人間で人間味あふれるパロマ
映画前半に登場し、最高のインパクトを残すボンドウーマンが、キューバの女性エージェント・パロマだ。胸元のあいたセクシーなドレス姿でボンドの前に現れた彼女は、出会って早々ボンドの服を脱がせ始めるが、それは単に任務の前に服を着替えさせようとしただけ。昔の『007』であれば5分後は濃厚なベッドシーンか、金粉まみれの彼女が死体で発見されるといった、絵空事の展開がお約束だったことを考えると隔世の感がある。
続く銃撃戦では、ガンさばきはプロ級だが仕事自体は結構雑という人間味が、彼女をより親しみやすい存在にした。そんなパロマは本作で「スピンオフ」が熱望されるほどの人気キャラになり、女優のアナ・デ・アルマス(『ブレードランナー 2049』)も本作で世界的にブレイク。次回作のマリリン・モンロー役にも熱い視線が集まっている。