クリス・エヴァンス×アナ・デ・アルマス『ゴーステッド Ghosted』が描いた理想的な男女関係

『ゴーステッド』が描いた理想的な男女関係

 これまで、『ノック・ノック』(2015年)や『ブレードランナー 2049』(2017年)、『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019年)などで存在感を示してきた、アナ・デ・アルマス。いま映画界で最も勢いがあるといえる彼女が、近年大きく注目を浴びたのが、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)でのCIAエージェント役だった。

 出演時間は限られていながら、華麗な身のこなしによるハードなアクションと、持ち前のキュートな魅力、そしてジェームズ・ボンドになびかない新時代のボンドガールとして、我が道をいく鮮烈な印象を残したことで、女性が演じる新たなジェームズ・ボンド映画の可能性すらイメージさせてくれたのが、製作者とともにアナ・デ・アルマスの功績として知られている。とはいえ、彼女はキューバ系アメリカ人俳優であり、イギリス人であることが何よりも優先されるボンド役を演じることは考えられない。

 その後、アルマスは『グレイマン』(2022年)でもCIAエージェントを演じることになるが、彼女がまさに女性版ボンドのときのような、経験豊富なスパイ役を演じるアクション映画を観たいという願望を、そのまま叶えてくれる映画といえば、新たに配信が開始された映画『ゴーステッド Ghosted』ということになるだろう。

 『ゾンビランド』シリーズ、『デッドプール』シリーズの脚本家コンビによるオリジナルストーリーで、国際的な凶悪犯罪と戦う女性の凄腕エージェントと、実家で農業を営む平凡な男性とのロマンス、そして二人が激しいアクションを繰り広げるという内容の本作は、もともと、スカーレット・ヨハンソンとクリス・エヴァンスがダブル主演する予定だったという。だがヨハンソンのみスケジュールが折り合わず、代役としてアルマスが役を演じることになったのだ。

 『アベンジャーズ』シリーズにてキャプテン・アメリカとブラック・ウィドウをそれぞれ演じ、気心の知れている二人が、スパイとしてコンビを組むという趣向も楽しみではあったが、それは同時に、容易にその光景の想像がついてしまう部分もある。その点、アルマスはエヴァンスと、すでに2度共演を果たしてはいるものの、役柄としてコンビネーションを発揮するというのは新鮮で、どのような化学変化が起きるのか、楽しみなところだ。

 物語の始まりは、ワシントンD.C.。その郊外で農業を営んでいるコール(クリス・エヴァンス)は、理想の女性セイディ(アナ・デ・アルマス)に出会う。1回目のデートで、『エクソシスト』(1973年)のロケ地を見るなど街を散策し、一夜のベッドを共にしたコールは、彼女とプライベートに連絡を取り合える仲となり、ウキウキな気分を味わって、思わず家族みんなに吹聴してしまう。だが多忙なのか、その後セイディからの返信が遅い。農作業のかたわら、コールは気が気ではなく何度もアプリでメッセージを送信するが、そのまま音信は断たれてしまう。ここまでは、純粋なラブコメロマンスの始まりといえる内容だ。

 親密な関係だったはずの相手が、あたかも“ゴースト”であったかのようにしてしまう……それが本作のタイトルともなっている、近頃の恋愛にありがちな、別れのパターンを示すスラングなのだ。本作のコールのように、相手をかけがえのない存在だと思っている側にとっては、そのような仕打ちが納得できないのは理解できる。しかし別れたい側にとっては、相手をむやみに傷つけたり波風を立てたくないため、お互いの関係性において自分をゴースト化したいと考えるというのも、また理解できるところなのである。

 だが、それでも納得がいかないコールは、彼女が出国した痕跡を見つけると、「異常だと思われるよ」という、妹のアドバイスに耳を貸さず、ついに滞在先だと思われるロンドンまで追いかけていってしまうのだった。このあたりの男性の情けなくも涙ぐましい恋愛心理は、さすが『ゾンビランド』シリーズの脚本家の筆だといえるだろう。

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