『フィクサー』は決して絵空事ではない? 岸博幸が政治&映像ビジネスの視点から語る

 『連続ドラマW フィクサー Season1』が、4月23日よりWOWOWにて放送・配信中だ。

 本作は、2008年に「連続ドラマW」の第1弾として始まった『パンドラ』シリーズをはじめ、『白い巨塔』(フジテレビ系)、『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系)などを手がけてきた脚本家・井上由美子が“フィクサー”を題材に描く全5話のWOWOWオリジナルドラマ。政界、財界、法曹界など、どこの世界にも物事には表と裏がある。本作は世の中を裏から操る“フィクサー”の暗躍と金と権力に群がる人間たちを描き、3Seasonにわたる大型ドラマシリーズとして展開。「連続ドラマW」作品初出演、そして初主演となる唐沢寿明が、謎めいた主人公のフィクサー・設楽拳一を演じる。

 そんな同作について自身も官僚として政界の裏側を知り、レコード会社の役員としてハリウッドと映像取引の経験もある岸博幸に話を聞いた。(編集部)

実際の政治の世界と比べても描写が極めてリアルだ

――まず『連続ドラマW フィクサー Season1』の第1話を観て、どんな感想を持たれましたか?

岸博幸(以下、岸):すごく面白かったです。僕の場合、どうしても2つの観点から観てしまうのですが……ひとつは、自分自身がずっと、今も含めて「政治」の現場に関わっているという観点で。実際、このドラマが描いているような「フィクサー」……いや、「フィクサーもどき」って言ったほうがいいかな(笑)。

――そうなんですね。

岸:だから、それと比較しながら観てしまうというのと……もうひとつは、私はエイベックスというレコード会社の役員をやっていて、今は顧問もやっているのですが、そっちの仕事の関係で、ハリウッドとやり取りをしたこともあるんですよね。なので、どうしても「映像ビジネス」という観点から、本作を観てしまうところもあって。そういうまったく違う2つの観点からこのドラマを観ていたんですけど、どっちの観点から観ても非常に面白かったです。

――なるほど。まずは、その1つ目の観点から。岸さんは、もともと通商産業省(現・経済産業省)の官僚で、大臣秘書官や大臣補佐官、内閣官房参与を歴任されるなど、実際の政治家との接点も多かったと思いますが、それらの経験を踏まえた上で、このドラマはいかがでしたか?

岸:先ほども言いましたけど、こういうフィクサーみたいな人が日本にもいると言うと、「それは映画の世界だよね」とか「都市伝説でしょ?」とか言われることが多いんですよね。だけど、「政治」の世界には、いるわけですよ。

――はいはい。

岸:特に地方とかに行くと、そういう方がいて、もう何十年もずっと政治に関わってきていたりするんです。自分のお金を投じながら、自分が目を掛けた政治家を支援する。 

――なるほど。

岸:そういう人間をいっぱい見てきた経験から言うと……このドラマの唐沢(寿明)さんのような、こんなにカッコいいフィクサーはいませんけど(笑)、実際こういう人がいると思います。そういうものが、非常に上手く描写されているように感じたんですよね。

――ちなみに岸さん自身は、実際の政治の世界で、そういう人たちと初めて接したとき、どんなことを感じたんですか?

岸:私は別に、そういうのはあんまり興味がなくて、自分が立案した政策を実現することしか考えていなかったんですけど、そういう人たちを避けて、それができるかって言ったら、やっぱり難しいんですよ。政策を実現させるためには、そういう人たちに話を通したほうが速いというのはありますから。

――本作を観た元・東京地検特捜部の方が、「極めてリアルだ!」というコメントを寄せていましたけど、やはりそういう意味ではリアルなんですね。

岸:リアルだと思います。非常にリサーチを重ねているというか、脚本を書く際に、だいぶいろいろ調べられたんじゃないかな。たとえば、冒頭のシーンで、総理が官邸に入ったあと、SPもつけずに運転手と2人きりで車で出掛けるじゃないですか。

――劇中では「かご抜け」と言われていました。

岸:世の中の人にあまり知られていない政界の裏側をドラマとして描くという意味でも、すごく面白くなりそうだなと思いました。

――最初におっしゃっていた2つ目の観点、「映像ビジネス」という観点からは、いかがでしたか?

岸:それは、もうシンプルな話で。ハリウッドで、いろいろやった経験から言うと、映像というのは、掛けたお金に比例して良くなるんですよね。ところが、日本では、そこまでお金が掛けられない。そこには、いわゆるリクープモデルの違いというか、そこがハリウッドと日本では全然違っていて。日本の場合は、基本的に地上波なら地上波で放送して、そこの広告収入だけで何とかしようとするから、予算全体が非常に小さいんですよ。映画にしたって、国内の興行収入だけを考えれば、どうしても小さい予算規模になってしまう。ただ、このドラマの場合は、どう見ても、お金をたくさん掛けているじゃないですか。それ自体がまず、すごく嬉しいことだなって思いました。

――いわゆる「映像ルック」からして、かなりリッチというか、そのあたりは制作サイドも、だいぶ意識しているようですね。

岸:そうそう。キツキツの予算の中で、一生懸命頑張りましたっていうだけのものと比べると、やっぱり映像からして全然違いますよね。出演されている役者も、すごく豪華ですし、海外に出すことも、チャンスがあれば狙っているんでしょう。それは、すごくいいことだと思うんです。先ほど言ったように、国内市場だけでは、やっぱり限界がありますから。

――昨今、世界中で人気の韓国ドラマのように、日本のドラマも海外に打って出るべきだと。

岸:今は韓国ドラマが世界中を席巻しているわけで、それが日本にできないはずはないと、私は真剣に思っています。なので、この『フィクサー』が、その尖兵となって頑張ってくれたらいいなと。アメリカでも、WOWOWのようなペイチャンネルが、すごく大きな予算を投じてクオリティの高いドラマを作ることが、当たり前になっているので、そういう流れが、日本にもようやくきたんだって思わせてくれるようなドラマだと思います。

――ここからは、少し具体的な話を聞かせてください。現在、無料で配信視聴もできる『フィクサー』第1話は、総理大臣(永島敏行)が事故で意識不明の重態に陥る中、その対応に追われる総理秘書(藤木直人)に「謎のフィクサー/設楽拳一(唐沢寿明)」が接触、その一方で、副総理(小林薫)、官房長官(陣内孝則)、さらには警察やマスコミなどの諸勢力が、それぞれ動き始めるという盛りだくさんの内容でした。岸さんは、具体的には、どのあたりが印象に残りましたか?

岸:今、おっしゃられたように、第1話から日本の普通のテレビドラマとは違っていて、ちょっとアメリカ的な作りじゃないかと思います。第1話から、いろんな種をあちこちにまいていって、それがこれからどう展開していくのかわからないっていう。そういうところが、観ていて新鮮でした。あと、個人的に惹かれたのは、西田敏行さん演じる「伝説のフィクサー」ですかね。第1話の段階では、まだ何者か、よくわからないじゃないですか(笑)。

――そうですね(笑)。

岸:なので、彼がどのような人物なのかっていうのは、観ていてすごく興味を惹かれましたし、やっぱり西田さんは演技が上手いですから。政治家役をやられている俳優さんたちも、みんな迫力がありましたね。陣内(孝則)さん演じる官房長官が、この機会に自分が権力をつかもうとしている感じとか、非常にリアルでした。「ああ、これは実際に見たことがあるな……」って思いましたから(笑)。

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