『ヘル・レイザー』から『X エックス』まで恐怖の進化を辿る 各国対抗ホラー映画を堪能

WOWOWオンデマンド各国ホラー映画特集

 ホラー映画とひとえに言っても、ジャンルは多岐にわたる。“死”や“暴力”が人類共通の恐怖の根源だとしても、国や文化の違いによって「怖い」と感じるものが違うことだってある。番組配信サービス「WOWOWオンデマンド」では、5月7日までの期間限定で「旅」をテーマに各国の作品を特集中。今回紹介するような、恐怖の対象はもちろん作風や演出が大きく異なるアジアと欧米の作品を比較できるような良作ホラーとの出会いも可能だ。

 大きく話題となり、評価された映画はもちろん、リバイバルが話題になっているクラシックホラーから近年の邦画の中でも印象的だった作品まで網羅されている。超自然的モキュメンタリーの『女神の継承』、A24製作のスプラッターホラー『X エックス』、80年代を代表する1作『ヘル・レイザー』、都市伝説をもとにした『N号棟』。一見共通性のないこれらの作品を横に並べてみると、実は各ジャンルにおけるホラーの現在地点が見えてくるような気がする。

『女神の継承』©︎ 2021 SHOWBOX AND NORTHERN CROSS, ALL RIGHTS RESERVED.

 アジア圏の映画が北米で注目されることは当たり前ではない。しかし2022年7月に日本公開されたバンジョン・ピサンタナクーン監督による『女神の継承』は、各国で話題となった。タイのドキュメンタリーチームがイサーン地方に訪れ、祈祷師のニムの生活に密着するも、取材中にニムの姪におかしなことが起き始める……というフェイクドキュメンタリーホラーである。「悪魔祓い(エクソシズム)」は欧米のホラー映画でもよく描かれるジャンルだが、本作はタイのアニミズムや土着信仰の呪いなど独自の文化を背景に、新しい形で映すことに成功した。

 『女神の継承』は自国のカラーやテイストを全面的に出すことはもちろん、様々な他国のホラーの要素をうまく取り入れて新鮮なものを作りあげた点が良い。モキュメンタリースタイルといえば代表的な作品としてアメリカの『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)、そしてスペイン発の『REC レック』(2007年)が挙げられるが、特に『女神の継承』は『REC レック』と同じ“報道映像”的な効果を持つ。ジョージ・A・ロメロ監督が『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)をモノクロで撮った理由の一つとして、当時のニュース映像がモノクロだったことから「ゾンビという非現実を現実的に見せることができる」と考えたように、まさにこの“報道映像”的な作風が『女神の継承』の描く恐怖に真実性を持たせた。クライマックスにかけて悪霊の行いがエスカレートし、想像以上に事態が悪化の一途を辿る時、従来の映画でなら「それでもなんとかなりそう」と思えていたことも、この映画だと「流石にどうにもならないかも」と絶望してしまう。そのままならない感覚が、現実的な作品なのだ。

 本作の製作・原案を担当したナ・ホンジンによる韓国映画『哭声/コクソン』の精神を“継承した”とも言われている本作は、アジアホラーのエッセンスも欠かさない。もともとジャパニーズホラーから多くを学んだタイホラーは日本人と親和性が高い。その代表作とも言える『心霊写真』(2004年)は、『リング』(1998年)や『呪怨』(2003年)の要素をふんだんに取り込んでいて、『女神の継承』においてもアニミズムなど、共有する観念や価値観が多いことが言える。そんなふうに、文化的背景に大きな違いがある国、ない国と関係なく、良作のホラー映画を吸収し成長していくのがタイホラーの過去であり、現在に思える。

『X エックス』©︎2022 Over The Hill Pictures LLC All Rights Reserved.

 『女神の継承』の良さが真実性にあると先述したが、それに比べスタジオA24が製作・配給した『X エックス』のような暴力性の高さが全面的に出る作品は、逆にファンタジーとして楽しめられる良さがある。本作は同スタジオにとって初めてシリーズ化された作品でもあり、かなり気合を入れて作られた映画だ。むしろ、これまで『ヘレディタリー/継承』や『ウィッチ』など様々なジャンルのホラー映画を生み出してきたA24がスプラッターホラーに注力したことが興味深い。

 1979年のテキサス州の田舎を舞台にした本作は、主人公のマキシーンと仲間が自主ポルノ映画を撮りに農場の離れを老夫婦から借りるところから始まる。しかし、早々に老夫婦が殺人鬼であることが明かされ、若者たちが次々に始末されていく……という“典型的”なスプラッター映画だ。この“典型”を生み出し、ホラージャンルに限らず多くの映画監督に影響を与えた映画『悪魔のいけにえ』(1974年)を本作で全体的に引用するだけでなく、再び現代で描き切ることの意味を提示した。それは、ジャンル映画に対する正当な評価とアップデートである。

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