『フィクサー』は決して絵空事ではない? 岸博幸が政治&映像ビジネスの視点から語る
エンターテインメントを通じて世界を知ることの重要性
――唐沢さん演じるフィクサーが、まず始めに町田啓太さん演じる新聞社の政治部記者に情報をリークするようなシーンもありましたが、そのあたりはいかがですか?
岸:そういうことは、実際ありますね。政治家サイドが、メディアをうまく利用するみたいなことは、普通に行われています。このドラマのように、記者を「一本釣り」するみたいなことも結構あり、私自身、そういうことを一時期やっていましたから(笑)。普通の人は、あまり経験する機会がないかもしれないですけど。だから、こういうドラマを通して、「実際、そういうことがあるんだな」っていう感覚を持ってもらえればいいなって思って観ていました。
――それは「癒着」といった話ではなく、人間関係があれば、そこには「貸し借り」だったり、いろいろな関係性が生まれるということですか?
岸:そういうものは、どの世界でも必ず生じるものじゃないですか。避けて通ることはできないし、逆にそういうものをうまく使っていかないと、政治の目標達成なんてことは、絶対無理ですから。
――ちなみに本作は、「政治家は名士という仮面をかぶったペテン師にすぎない」という言葉で幕を開けるわけですが、それが伝説のマフィア「アル・カポネ」の言葉だっていうのも皮肉が効いていますよね。言われているほうも言っているほうも、全員悪人という(笑)。
岸:そうですね(笑)。でもまあ、実際それが本質みたいなところはありますから。
――(笑)。その言葉が象徴しているように、このドラマは、主人公がフィクサーということもあり、いわゆる「勧善懲悪」のドラマにはならなそうですよね。
岸:日本人って、やっぱり「勧善懲悪」が好きじゃないですか。いわゆる『水戸黄門』的な勧善懲悪の物語が好きというか。だから、フィクサーというと、どうしても「悪者」のイメージがあるように思っていて。ただ、実際にいるフィクサーというのは、勧善懲悪では語れない存在なんですよね。そういう人たちが、実際この世の中を動かしているのは事実ですから。そういう意味で、このドラマは、日本人が大好きな勧善懲悪から、ちょっと脱却したところがあるんじゃないですか。脱却というか、むしろ「進化」と言っていいのかもしれないですけど。
――というと?
岸:日本のドラマって、どこかワンパターンなところがあるじゃないですか。結局のところ、勧善懲悪みたいなものが、いまだに基本になっているようなところがあります。
――正義の主人公が、やがて巨悪に立ち向かうような話は、相変わらず多いですよね。
岸:そうそう。でも、それってリアルじゃないと思うんですよね。この世界のどこに、そんな人がいるんだっていう(笑)。だから、結果として、ある種のファンタジーになってしまうんです。なぜなら、実際の世界は、そうではないから。
――いわゆる「正義感」で行動している人たちは、ほとんどいなく、マスコミの人間も含めて、みんな「自己実現」の欲求に駆られて行動しているようなところがありますね。
岸:そこがすごくリアルな感じがしていいんです。そういう現実に近い描き方をしてくれているっていうのは、実際その世界に関わってきた人間としては、ある意味嬉しいことでもあって。このドラマを通じて、その現実をいろいろと知ってもらえればいいなと思っています。
――こういったテーマを、敢えて「社会派」と銘打つのではなく、あくまでも「エンターテインメント」として描くことは、大事なことのように思ったのですが、そのあたりはいかがでしょう?
岸:そうですね。私は、こういったものを、社会派のドキュメンタリー的な感じでやる必要は、まったくないと思っていて。映画『ゴッドファーザー』とかも、そうじゃないですか。あの映画を「社会派」とは、誰も言わないわけで。あくまでも「エンターテインメント」として、マフィアの世界を扱っている。それによって、結果的に多くの人たちが、ああいうマフィアの世界があるってことを認識できたというか、それに対して認識を深めることができたと思います。
――確かに。エンターテインメントとして面白ければ、その世界のことをもっと知りたいと思ったり、興味が湧いたりもしますよね。
岸:だから私は、こういった題材を、「真実を追求します!」みたいな感じで描く必要は、全然ないと思っているんですよね。むしろ、こういうエンターテインメントを通じて、世の中の人たちに、こういう世界があるということを、まずはわかってもらったほうがいいと思っています。そっちのほうが、作るほうは大変だろうなって思いますけど。この作品も、脚本を書くのとか、ものすごく大変だったと思うんですよね。それをリアルに見せるためには、かなりいろいろなことを事前にリサーチする必要がありますから。
――いずれにせよ、志の高いドラマであることは、間違いないと。
岸:そう思います。先ほど言ったように、そういう人たちは、大体最後は「金」と「権力」の話になってしまうので、このドラマも多分そういう方向になっていくんじゃないかと期待しています。
――しかし、どうして最後は「金」と「権力」の話になってしまうんでしょうね……。
岸:やっぱり、「金」と「権力」って、蜜の味なんですよ。まあ、お金に関しては、わかるじゃないですか。権力というのも、やはりそういうもので、ちょっとでも権力を持つと、それがだんだん快楽になっていくわけですよ。自分で全部決められるから。
――さらには、動かせる物事や人間の数も多くなり、自ずと他人に対する影響力も大きくなるという。そういう意味では、昨今のインフルエンサーやYouTuberに近いようなところもあるんですかね?
岸:そうですね。ただ、本物のフィクサーは、自分が目立とうなんてことは、絶対に思わないんですよね。もちろん、「目立つ」というのも、ある種の「快楽」だとは思うんですけど、本物のフィクサーたちは、その段階はとっくに超えています。自分の影響力とか、自分のところに入ってくるお金とか、そういうものにしか興味がないんですよ。
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■放送・配信情報
『連続ドラマW フィクサー Season1』(全5話)
WOWOWにて、毎週日曜22:00〜放送・配信中
出演:唐沢寿明、唐沢寿明、藤木直人、町田啓太、小泉孝太郎、要潤、吉川愛、斉藤由貴、駿河太郎、西田敏行(特別出演)、永島敏行、富田靖子、陣内孝則、内田有紀、小林薫
脚本:井上由美子
企画・プロデュース:青木泰憲
監督:西浦正記
音楽:得田真裕
プロデューサー:村松亜樹、髙田良平、黒沢淳
制作協力:リオネス
製作著作:WOWOW
©︎WOWOW
特設サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/fixer1/
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