『レナベーション』は除雪車事故の経緯ともリンク “ヒーロー”としてのジェレミー・レナー

“ヒーロー”としてのジェレミー・レナー

 MCUといえば他の出演俳優たちも、慈善事業に従事していることで知られている。かつて素行が悪い俳優の代表格として知られていたロバート・ダウニー・Jr.は、アイアンマンを演じた後で、地球環境を改善することを目指す組織を設立し、キャプテン・アメリカを演じたクリス・エヴァンスは、若い世代が政治に興味を持つように党派性を排除した政治系ウェブサイトをリリースしている。

 これは、考えてみれば当然の流れなのかもしれない。近年のヒーロー大作映画は、一作ごとに大ヒットを続け、俳優に渡る出演料は莫大だ。では、そんなビジネス的に成功を遂げた俳優たちが、自分たちだけの力でそれを達成したといえば嘘になってしまうだろう。

 時流の流れや運はもちろん、彼らをサポートした人々や、ヒーロー映画を支持して映画館へ足を運んだ人々など、多くの力があってスターたち、ヒーローたちが誕生したのである。そしてヒーロー映画は、“人々を助けるために尽力する”という精神によって成立している。であるならば、スター俳優たちが自分たちの利益を社会に還元し、勝ち得た地位を意義あることに繋げていかなければならないという思考になるのは、自然なことなのではないだろうか。

 慈善団体などに大金を寄付するようなかたちの社会貢献にも意義はあるが、ロバート・ダウニー・Jr.や、クリス・エヴァンスらの行動がより共感できるのは、自分たちが率先して行動し、自らが継続してプロジェクトにかかわっていく姿勢を見せていることだ。本番組『レナベーション』もまた、レナー自身が活動に積極的にかかわるという点で、同じ志を共有しているといえるだろう。

 レナーは子どもの頃からものづくりが好きで、成長するにつれ大型車に手を入れることに情熱を感じるようになったという。そして、まだ自分の本格的に進む道を決めかねていた学生時代に演劇と出会い、仲間たちとともに舞台作品を完成させた体験が基になっているという。本番組でチームが協力して大型車を改造し、一つの目的を達成するという趣向は、そんな過去を持つレナーらしい試みだ。

 プロジェクトは、レナーによる思いつきと、廃車となっている大型車の確保に始まる。レナー自らの運転で、改造用のガレージに大型車が入ってくると、クルーたちが、「イェーーーー!」、「フフゥウーーーー!」と、いかにもアメリカンといえる豪快なリアクションで盛り上がる。そこからプランを詰めていき、車両の大規模な改造へと取り掛かるのだ。

 番組に登場するのは、ビジネスパートナーでムードメーカーのロリー。主任整備としてチーム・ドクターを務めるコーリー。長いヒゲがトレードマークの現場責任者ベンダー。そして作業にあたるメリやロクシー、ライアンやジャスティンら優秀なビルド・クルー(組み立て作業員)だ。なかでも、車両、金属部品の加工・溶接という男性が多い分野で技術を発揮する女性クルーたちの活躍がかっこいい。さらには、『ハイスクール・ミュージカル』シリーズのヴァネッサ・ハジェンズ、『ミラベルと魔法だらけの家』でも活躍したアーティストのセバスチャン・ヤトラ、そして現キャプテン・アメリカを演じているアンソニー・マッキーなどもプロジェクトに参加する。

 レナーが語るとおり、大勢が協力して車両が作り上げられ、それが子どもたちの笑顔で報いられることでの達成感は格別で、見ているだけの視聴者にも、その雰囲気を味わうことができる。だが、本番組の試みとは、このような達成の気分を、ただお裾分けするのにとどまるものではないだろう。

 レナーの本番組での社会貢献での尽力や、事故に見舞われる結果にはなってしまったが、目の前の他者のために手を差し伸べる精神そのものは、多くの人が見習うことができるものだ。もちろん、レナーのように豪快で大規模な活動ができる人は限られる。しかし、それぞれができる範囲で他者や身の回りの人を助けたり喜ばせたり、もしくは自然環境に貢献することは、今すぐにでも可能なのだ。そのときわれわれは、レナーと同じヒーローとなれる。『レナベーション』は、その行動をこそ促す番組だといえるのではないだろうか。

■配信情報
『レナベーション』
ディズニープラスにて独占配信中
©2023 Disney and its related entities

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