石井ふく子Pが語る、橋田壽賀子との思い “出演料はいらない”『渡鬼』キャストとの縁も
こんなに長く続くと思わなかった『渡鬼』
――今回、改めて『渡る世間は鬼ばかり三時間スペシャル2019』(TBS系)を見返したのですが、次女の五月(泉ピン子)がスマホを買ってユーチューバーになるという展開は今観ても凄いなぁと思います。『渡鬼』ってときどき、ものすごく現代的な要素が加わるじゃないですか。あの塩梅はどうやって決まったのですか?
石井:あれは橋田先生のアイデアですね。『渡鬼』は年代に関係なく、テレビの前にいる人にも、そうでない人にも観てもらいたかったので「あなたの書きたいことを書きなさい」と言いました。
――五月の姿を見て、漠然と考えていた老後のイメージが変わったんですよね。五月は僕の母親より少し下の年齢なんですけど。
石井:お母さんのことを思い出しましたか?
――はい。『渡鬼』ってものすごく長く放送していたドラマなので、僕にとっては「もうひとつの日常」でした。子どもの時に母がテレビで観ている後ろでなんとなく観ていたドラマが、いつの間にか他人事ではなくなっていた。だから『渡鬼』といっしょに年齢を重ねてきたところがあります。
石井:そう言ってもらえると嬉しいです。
――『渡鬼』を初めた時は、こんなに長く続くと思いましたか?
石井:思わなかったです。皆さんの要求があったからこそ続いたのだと思います。大変だったのは、脚本を熱海に取りに行かないといけなかったことで。雪が降っても雨が降っても、熱海の上まで取りに行かないと橋田先生は脚本を渡してくれませんでした。
――送ってくれなかったんですね(笑)。
石井:橋田先生の目の前で私が脚本を読んで、「ここがダメ」「ここはなかなか良い」など、面と向かって意見を言わないと嫌だと言われました。だから500回くらい熱海には行きました。
心と心がぶつかり合う脚本
――最後に、橋田文化財団の今後について教えて下さい。
石井:橋田先生が亡くなる前に病院からお電話いただいて「私たちが何十年もやってきたことを無駄にしないでよね」「人は一人ぼっちじゃないんだよ」と言われたんです。
――石井さんの書かれた『家族のようなあなたへ―橋田壽賀子さんと歩んだ60年』(世界文化社)を読ませていただいたのですが、亡くなる間際に橋田さんから「あなたは妹なんだから」と言われたそうですが。
石井:初めてそんなことを言われたので「何言うの?」って笑っちゃったんですけど。
――橋田さんのことをお姉さんと思ったことは?
石井:思ってなかったですよ(笑)。「財団のこと頼むね」って言われたから「うん」って言ったら、「『うん』じゃないだろ『はい』って言え。あんたは私のひとつ下で、自分はお姉さんだ。お姉さんの言うことは聞け」って電話で言われたんですよ。それで「はい」って言った後「これでいいの?」って聞いたら、「それでいい」って言われたんです。そんなこと言う人じゃないからびっくりしたんですよ。ちょっと、いやぁな気分がしたの。具合が悪いんじゃないかなぁって思って、「そんな変なこと言わないでよ」って言ったら、「あんたに言っておかないと」って言われたので。だから、橋田先生の意思を継いで、橋田文化財団では新人を育てていきたいと思っています。
――橋田壽賀子財団は毎年橋田賞新人脚本家賞を募集していますね。
石井:毎年募集していまして、今年は597篇の応募がありました。残念ながら入選作がなかったのですが、入賞作は映像化する予定です。また、脚本家を目指す人のためのオンラインセミナーを開催しています。
――新人賞には、どのような脚本を求めているのでしょうか?
石井:橋田先生が大事にしていたのは“心”なんです。「最終的に人はひとりぼっちじゃない。みんなに支えられて生きているんだ」ということずっと書いてきました。最近のドラマはシーンが短くて、回想シーンやフラッシュバックが多いのですが、その場でお互いが心と心をぶつけ合う脚本を書いてほしいです。
■放送情報
『ひとりぼっち ―人と人をつなぐ愛の物語―』
TBS系にて、4月9日(日)21:00~22:48放送
出演:相葉雅紀、上戸彩、仲野太賀、えなりかずき、角野卓造、中田喜子、野村真美、藤田朋子、小林綾子、船越英一郎、坂本冬美、 一路真輝
作:山本むつみ
演出:清弘誠
プロデューサー:石井ふく子
製作著作:TBS
©︎TBS
公式Twitter:@hitoribotchitbs