石井ふく子Pが語る、橋田壽賀子との思い “出演料はいらない”『渡鬼』キャストとの縁も
石井ふく子プロデュースドラマ『ひとりぼっち ―人と人をつなぐ愛の物語―』(以下、『ひとりぼっち』)が、4月9日21時よりTBS系で放送される。
本作は、姉を亡くした孤独な青年・杉信也(相葉雅紀)が、友人に誘われて訪れたおにぎり専門店「たちばな」で、亡くなった姉にそっくりな店主・立花香(坂本冬美)と出会うところからはじまる、人と人のつながりを描いたドラマだ。
本作は、2021年に亡くなった脚本家の橋田壽賀子に捧げる物語となっている。石井と橋田は『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系/以下『渡鬼』)を筆頭とするテレビドラマを長きに渡って作り続けてきたコンビ。橋田の意思を後世に伝えるため、石井は一般財団法人・橋田文化財団を当初から支え、今回の『ひとりぼっち』には脚本の山本むつみ、俳優の仲野太賀といった橋田賞にゆかりのある方が多く関わっている。
この度、リアルサウンドではプロデューサーの石井ふく子にインタビューを行い、新作ドラマ『ひとりぼっち』、長寿ドラマとなった『渡鬼』の思い出、そして、橋田文化財団の今後について聞いた。
『渡鬼』を筆頭に女性を主人公にした家族の物語を作り続けてきた石井だが、今回の『ひとりぼっち』は、家族を失い孤独を抱える男性が主人公となっている。なぜ石井は孤独な青年の物語を橋田壽賀子に捧げる物語として作ったのか?(成馬零一)
「人と人の心を結ぶおにぎり」
――今回の作品は「橋田壽賀子先生に捧げる物語」と銘打たれていますが、「孤独」がテーマだったことが意外でした。
石井ふく子(以下、石井):今、いろいろな問題が世の中にあるじゃないですか。今までの日本ではありえなかったような問題が起こっている。みんなひとりぼっちで、誰とも喋れないし誰かと喋っていてもなんとなくつらい。寂しさの中にいる「ひとりぼっち」の人がどういうふうに生きていくのか。そういうところからからドラマを作っていこうと思いました。
――石井さんと橋田さんの作品は、女性と家族の話という印象が強かったので、ひとりの男性が主人公ということにも驚きました。
石井:私、ひとりの男の人が主人公の話を作るのは今回が初めてなんですよね。
――石井さんと橋田さんはずっと家族のドラマを作られてきたと思うのですが、今回は家族を失った青年が主人公で、おにぎり屋さんを舞台にした血がつながっている家族ではない人たちの物語ですね。
石井:でも最終的に、人は人に助けられるんですよ。人は人に面倒をみてもらって生きていて、ひとりぼっちじゃない。そこまで持って行きたかったんですね。だから「人と人の心を結ぶおにぎり」の話にしようと思いました。
――今回の脚本は山本むつみさんですが、物語は二人で作られたのでしょうか?
石井:私がシノプシスを書いて、山本さんがいろいろと考えてきてくださりました。山本さんは第16回橋田賞を受賞された方ですが、今回は橋田賞を受賞された方に参加していただきました。
――おにぎり屋さんが舞台ですが、おにぎりに何か思い入れがあるのでしょうか?
石井: 私はいつも、スタジオには自分でおにぎりを作って持っていくんです。みなさん、撮影中は食べる暇がないんですよね。だから、おにぎりやゆでたまごを作ってきたりしてさしあげています。この間の撮影の時もみなさんから「石井さんのおにぎりください」って言われて、「悪いけど、あなた、おにぎり屋さんが来てるんだから、私が持っていくわけいかないでしょ」と断ったのですが、相葉(雅紀)くんが「僕ね、卵が好きなんです」と言ったので「卵サンド」を作って現場に持っていきました。
――今回は、おにぎり専門店の老舗「ぼんご」が全監修をおこなっています。
石井:おにぎりが50種類ぐらいあって美味しいんですよ。わたしが直接「ぼんご」に伺って、「おにぎり屋さんのドラマを作りたいので、おにぎりの握り方を俳優さんに教えていただけますか」と相談したら、4日間、時間をとっていただいて、本当によくしていただきました。
――主演の相葉雅紀さんとのお仕事は、今回が初めてですね。
石井:相葉くんはお料理を作っている場面をテレビ番組で拝見しただけで、一度もお話をしたことがなかったのですが、清潔感があって感じの良い人だったので、橋田さんのことをわかってくれるかなぁと思ってお願いしました。「忙しくて今はダメだよ」とスタッフからは言われたのですが、ジャニーズ事務所さんに直接連絡したら1カ月間スケジュールを空けていただいて。
――坂本冬美さんとテレビドラマでご一緒するのは初めてですね。
石井:冬美さんは舞台を3回ほど演出しているのですが、すごく性格の優しい方で。あまりテレビドラマには出ない方なのですが「橋田さんへの想いを込めた作品なので、是非、出ていただけませんか」とお願いしたら、スケジュール空けますと言ってくれて。おにぎり屋さんの二人は、坂本さんが演歌で、一路真輝さんがミュージカルという。
――面白いキャスティングだと思います。
石井:今回は今までやったことのない人とやろうと思っていたので、『渡鬼』にはあまり出ていない人を選ぼうと思って。ですので、長女(長山藍子)と次女(泉ピン子)は出ていないのですが、三女(中田喜子)、四女(野村真美)、五女(藤田朋子)は、“自分たちは橋田先生にお世話になったから、出演料はいらないので、おにぎり屋のお客として出してほしい”と何回も言ってきたので、出てもらいました。他にも、太賀くん、えなり(かずき)くん、船越英一郎さん、上戸彩さん。みなさん忙しい人ばかりなのに、本当によく出ていただきました。橋田さんも喜んでいると思います。
――若い人が観ても心に響く作品だと思います。
石井:若い人もお年を召した人もみんなで観てもらいたいです。今の日本で暮らしている人は、どの年代の方も心の中でどこか寂しいと感じている。そういう方に観てもらいたいです。そして、人は人に支えられているんだということも、もう一回心に秘めてもらえたら嬉しいです。