『エル・シド』『大列車作戦』映画史に残る傑作を吹替で堪能 レジェンド声優の名演が光る
『モスキート爆撃隊』
3本目は、ボリス・セイガル監督の『モスキート爆撃隊』(1970年)。『大列車作戦』と同じく1944年夏のヨーロッパ戦線を舞台にしているが、こちらは英国空軍モスキート爆撃隊の活躍を描いたスカイ・アクション。ドイツ軍の新型ロケット兵器「V3号」の地下製造工場を爆破するという、極めて困難なミッションに挑むパイロットたちの姿がサスペンスフルに映し出される。同時に、兄弟同然に育った戦友を目の前で失ったクイント中尉(デヴィッド・マッカラム)と、戦友の妻ベス(スザンヌ・ネヴ)との道ならぬロマンスを絡め、物語はドラマティックに展開。TVムービーを数多く手がけたボリス・セイガル監督の手堅い職人技が光る、小粒ながら魅力的な逸品だ。
本作は『エル・シド』『大列車作戦』の本物志向とは違って、ミニチュア特撮や既存のフッテージを駆使し、低予算でも見応えのある戦争映画のルックを作り上げている。ミリタリーファンの注目ポイントは、巧みなカットバックで魅せる緊迫の空中戦と、英国軍が実際に使用した兵器「ハイボール爆弾」による一風変わった攻撃シーン。超低空飛行で投下したボール型爆弾が、地面をバウンドしながら目標に向かっていくビジュアルはどこかユーモラスでもあり、ほかの戦争映画ではなかなかお目にかかれない。クライマックスに向けて作戦の難易度がどんどん上がっていくスリリングな展開も上手い。
吹替音声は、1975年に放送されたTBS『月曜ロードショー』の音源。人気TVシリーズ『0011/ナポレオン・ソロ』(1964~1968年)で一世を風靡したデヴィッド・マッカラムの声は、同作に続いて野沢那智が担当。友を失った悲しみ、親友の妻に想いを寄せる罪悪感といった複雑な感情を背負ったキャラクターが、これほどぴったりハマる配役はない。そしてヒロインのベスを演じるのは、洋画吹替ファンにとっては永遠の憧れの的、池田昌子。この豪華なキャスティングも、本作の良質なメロドラマ性をさらに高めている。また、若き日の若本規夫、古川登志夫ほか、いまや重鎮といえる声優陣によるフレッシュな演技も聴きどころ。特に、軍上層部の非情な命令に葛藤し、反発する戦友の弟ダグラス(デヴィッド・ダンダス)を演じた中尾隆聖の初々しい熱演が素晴らしい。
それぞれの作品が映画史のなかで放つ唯一無二の価値を噛みしめつつ、日本人にとってはかけがえのない遺産――吹替音声の色褪せない魅力も堪能できる貴重なシリーズ、それが「吹替シネマ」である。次回もまた、洋画ファン必見の名盤を紹介したい。
■リリース情報
『エル・シド-日本語吹替音声収録 HD リマスター版-』
発売中
価格:4,800円(税抜)
© 1961 SAMUEL BRONSTON PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED.
『エル・シド-日本語吹替音声収録 HD リマスター版 SPECIAL-』
発売中
価格:6,800円(税抜)
© 1961 SAMUEL BRONSTON PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED.
『モスキート爆撃隊-日本語吹替音声収録 HD リマスター版-』
発売中
価格:4,800円(税抜)
MOSQUITO SQUADRON©1970 Oakmont Productions, Inc. All Rights Reserved.
『大列車作戦-日本語吹替音声収録 HD リマスター版-』
発売中
価格:4,800円(税抜)
THE TRAIN©1964 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.
発売元:株式会社ニューライン
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング