『エル・シド』『大列車作戦』映画史に残る傑作を吹替で堪能 レジェンド声優の名演が光る

「吹替シネマ2023」で往年の名作を堪能

 ニューライン&ハピネット・メディアマーケティングが贈る、洋画ファン注目のBlu-rayレーベル「吹替シネマ」。2023年のラインナップも、映画史に残る歴史超大作から孤高の鬼才の代表作まで、見逃せない強力タイトルが勢揃いした。今回はその中から、史実をもとにした戦記エンターテインメントの必見作を3本紹介しよう。もちろん、錚々たるレジェンド級声優陣が集った吹替音声にも注目だ(3作品とも、ソフト初収録!)。

『エル・シド』

 1本目は、アンソニー・マン監督の『エル・シド』(1961年)。11世紀スペインに実在した救国の英雄、エル・シドこと勇将ロドリゴ・ディアスの半生を描いた大作史劇だ。国内の権力闘争や人種間の確執を越え、祖国スペインを死守するために文字どおり命を費やした男のドラマが、スペインの雄大な景観をバックに映し出される。逆境にめげず愛と信頼を勝ち取る誠実な英雄を力演するのは、『十戒』(1956年)や『ベン・ハー』(1959年)など、ハリウッド大作史劇の顔として人気絶頂期にあったチャールトン・ヘストン。主人公と愛憎のメロドラマを織りなす妻シメーン役のソフィア・ローレン、スペイン王女ウラカ役のジュヌヴィエーヴ・パージュほか、国際派スターの豪華競演も目に楽しい。

 最大の見どころは、まさに壮観というほかないスケール豊かなビジュアルの数々。現存する古城に装飾を施した巨大なオープンセット、スペイン軍もエキストラに駆り出して撮影された圧巻の合戦シーンなど、いまや再現不可能なスペクタクル映像をBlu-rayの高画質で眺めるだけでも満腹感を味わえる。もちろんCGなどない時代の作品とはいえ、マット画合成やフッテージ流用などで節約もできたはずなのに、逃げずに“本物志向”を貫いた当時の製作陣の信念と気迫には胸打たれるばかり。

 なお、通常版と同時発売された2枚組の「SPECIAL」版には、本作の制作舞台裏について関係者が語る貴重なメイキングに加え、スペインに広大な撮影スタジオを建造した大物プロデューサー、サミュエル・ブロンストンの波乱の生涯を綴るドキュメンタリーも収録。これが本編にも匹敵する無類の面白さ! 映画史に興味のある人にはぜひ観てほしい。

 通常版・SPECIAL版ともに収録されている吹替音声は、1981年にテレビ東京で放送された『木曜洋画劇場』の音源。チャールトン・ヘストンの声を担当するのは、もちろん名優・納谷悟朗。テレビの洋画劇場を毎週欠かさず観ていた世代にとっては、鉄板のキャスティングだ。本作では勇壮かつ繊細な人間味を備えたヘストン=エル・シドの人物像を、貫録とともに純真さを滲ませ、見事に演じている。エル・シドと友情を紡ぐムーア人の武将ムータミン(ダグラス・ウィルマー)役と、ナレーションを兼任するベテラン家弓家正の妙演も光る。

『大列車作戦』

 2本目は、ジョン・フランケンハイマー監督の『大列車作戦』(1964年)。第二次大戦末期、パリ解放直前のフランスを舞台に、ナチスドイツによる絵画強奪を阻止せんとするレジスタンスの死闘を描いた戦争アクション大作だ。フランス国鉄職員としてドイツ軍に協力しながら、実はひそかに決死のサボタージュ作戦に奔走する主人公ラビッシュを演じるのは、多彩な監督たちとともに数多くの傑作・野心作を放ったバート・ランカスター。『影の軍隊』(1969年)や『暁の7人』(1975年)と並ぶレジスタンス映画の不朽の名作であり、絶頂期のジョン・フランケンハイマーによるシャープで骨太な演出が冴え渡る傑作である。待望のワイド画面対応・HDニューマスターのBlu-ray初収録が嬉しい。

 原作は、実際にレジスタンス活動に身を投じた元国立美術館館長ローズ・ヴァランによるノンフィクション。こちらは『エル・シド』とはまた別種の“本物志向”が貫かれており、その映像はいま観ても迫力満点だ。何しろ出てくる蒸気機関車はすべて本物、機関車同士の壮絶なクラッシュシーンも本物。主演のランカスターをはじめ俳優陣も自ら体を張って、リアルな運転シーンや危険なスタントに挑んでいる。ミリタリーファンのみならず、鉄道ファンも垂涎の名場面が続出する珠玉の一作だ。

 吹替音声は、1973年放送のNETテレビ『土曜洋画劇場』の音源。洋画吹替の草創期から活躍してきた、演劇畑出身の名優陣によるアンサンブルという貴重な素材に触れることができる。

 主人公ラビッシュ役を力強く演じるのは、国内テレビドラマの黎明期から活躍し、バート・ランカスターの吹替も数多く担当してきた久松保夫。憎々しさたっぷりに敵役のワルドハイム大佐(ポール・スコフィールド)役に扮するのは、『ウルトラマン』などのゲスト俳優としても印象を残した池田忠夫。また、ラビッシュと同じ鉄道員で、レジスタンスの同志でもあるディドン(アルベール・レミー)役を内海賢二が好演し、おなじみの名調子を聞かせてくれる。

 なお、英語版の本編は133分だが、本ディスクには「日本語吹替完全版再生機能」を搭載。テレビの2時間枠で放送された吹替収録箇所(正味98分)だけを通して再生できる、洋画ファンにはありがたいストレスフリーな仕様となっている。

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