『僕のヒーローアカデミア』期待を超えた佐倉綾音の名演 お茶子の叫びは第6期のベストに
3月25日にTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第6期の放送が終了した。前半(10月~12月)の「ヒーロー全員出動編」では、ヴィラン連合との全面戦争が行われ、エンデヴァーはもちろん、これまで戦闘シーンが見られなかったベストジーニストやミルコなどのプロヒーローたちが活躍した。死柄木弔を一時は追い込み、ヴィラン連合の壊滅を目前したもののオール・フォー・ワンの執念により、終わってみれば“作戦失敗”という結果に。
ただ、一番のミスは“ヴィラン連合を取り逃した”ということ以上に、ギガントマキアを食い止めることができずに街中で大暴れさせたこと。また、ヴィラン連合との対戦に怖気づき引退を発表するヒーローが続出。ギガントマキアの暴走を許したことに加え、自己保身に走るヒーローが相次いだ。その結果、かねてから作品内で指摘されていた“ヒーロー飽和社会”の違和感を顕在化させ、その違和感を絶対的な不信感に変えさせてしまった。
そのため、後半(1月~3月)の「黒いヒーロー編」はそんな市民の感情を表現したのか、サスペンス映画のように画面が終始暗い。それだけでも重苦しく感じるが、疑心暗鬼に苛まれ、ヒーローに頼らずに武器を買って自己防衛をする市民の言動も荒々しい。さらには、不安感から心に余裕がなくなり、視野狭窄に陥ったために“見た目”への差別も露呈。第133話では避難所に行こうとする、本作でいうところの“異形”の女性が容姿を理由に自警団のような人たちに襲われる。第137話でもこの女性は登場するが、避難所を何件もたらいまわしにされて、なんとか雄英に入れさせてもらったという。
正直、見た目についてはスピナーが触れたくらいで、そこまで言及されてはこなかった。どこか漠然と「この世界では容姿差別はあまりないのかな」と思っていただけに、泣きじゃくる女性に市民が一方的に攻撃を加えるシーンは衝撃だった。
損壊している街並み、さらには荒廃していく市民の心境も相まって、重苦しく空気感が多角的に表現された、これまでにはないシリーズと言える。だからなのか、第6期最終話の第138話では画面が明るくなり、1-A組の面々が織りなすやり取りにますますホッコリした。デクではなく出久と呼ぶことに照れる爆豪、バカ騒ぎしながら接する上鳴と切島、轟をイジり倒す峰田など、次の決戦までわずかな時間かもしれないが、いつも通りの1-A組に癒された。
前半とは違い戦闘シーンは少なく、レディ・ナガンとの戦いもスピード感と躍動感がある一瞬たりとも見逃せない内容だった。ただ、第6期後半は1-A組のクライメイトたちが放つ言葉が特に心に残っている。第136話は「デクの、クラスメイトの力になりたい」という思い、「まるで“弱者”と思われ、何も話してくれなかった」という悔しさから、デクと本気で向かい合う1-A組の姿は、青臭さと同時に羨ましささえも感じた。特に爆豪が謝罪するシーンはたまらない。もうそこにはプライドの高さから粗暴な言動が目立っていた爆豪はいない。自分自身の弱さを受け入れ、そのことをクライメイトたちの前で話す。ヒーローというよりは人間としての成長が伺えた。