『ヒロアカ』第6期は“形の違う正義”を描く 葛藤と孤独が漂う敵<ヴィラン>の美学

『ヒロアカ』敵<ヴィラン>の魅力とは

 心を揺さぶられるアニメには、魅力的なヒーローが登場するものだ。しかし、その陰で我々の正義感を揺さぶるような蠱惑的な悪役も存在する。

 ヒーローは悪を倒し、平和な世の中を守り続ける。TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』(以下、『ヒロアカ』)は、何らかの超常能力“個性”があることが当たり前の世の中で、“無個性”だった主人公が最高のヒーローを目指して、ヒーロー輩出の名門・雄英高校で成長していく物語だ。現在放送は第6期を迎え、悪のカリスマ死柄木と最強のヒーローたちの激しい抗争を描いている。

 『ヒロアカ』の面白さは、ヒーローの卵である雄英生の成長や活躍にあると思われがちだが、実はそれだけではない。

 『ヒロアカ』が敵<ヴィラン>に映し出すのは、誰もが心に抱える燻った感情や叶わなかった憧れだ。つまり、ヒーローが倒すべき敵<ヴィラン>にこそ『ヒロアカ』が万人から愛される本当の理由があるのではないだろうか。

視聴者の正義感をも揺さぶる敵<ヴィラン>の正義

 『ヒロアカ』における敵<ヴィラン>とは “個性”を悪用する犯罪者たちの総称だ。現在放送中の第6期では、ヒーローと敵<ヴィラン>の本格的な全面戦争を軸に、熱いバトルが繰り広げられている。

 『ヒロアカ』の世界において、敵<ヴィラン>は外面的には絶対悪とみなされている。しかし第6期を迎えて、その内面の奥底にはそれぞれの正義や善なる姿があるのではないかと思わされるシーンが増えていく。

 第6期第3話「One's Justice」で、敵<ヴィラン>連合の仲間であるトガヒミコを庇い、命を落としたトゥワイス(分倍河原仁)。自分に居場所をくれた仲間を守るというトゥワイスなりの正義は、世に求められる正義とは相入れないものだった。

 正義の形がそれぞれ異なることを改めて示唆するようなタイトルと、特殊エンディングに涙を流したファンも多いだろう。悪を打倒すべきものとしながらも、形の違う正義がそこにあることを否定せずに描く作品の良さがここにある。

 さらに、第6期第10話では敵<ヴィラン>のトガヒミコがこのように語るセリフがある。

「何をもって線を引くのでしょう。人を救ける人がヒーローなら仁くんは人じゃなかったのかな」

 切なげに零すトガの一言が、視聴者の正義感をも揺さぶる。トゥワイスに命を救ってもらったトガのこの台詞の求心力は、ヒーローを応援するファンにも届いたのではないかと思う。

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