『舞いあがれ!』貴司の心に響いた八木の“寂しくてきれい” 朝陽くんの心強い成長も

『舞いあがれ!』貴司は八木の詩心を聞く

 一方、自分の中から言葉が生まれずに苦しむ貴司はパリで八木に再会。詩を書くことはみんなが船上でパーティしている中で、海の底に咲いている花を取りに行くようなものだと教えてくれた八木に、自分が花を見つけられないのは結婚して幸せになったから、つまり船上でパーティする側の人間になってしまったからではないか、という思いを吐露する。

 愛する家族に囲まれ、幸せな自分にはもう八木のように“寂しくてきれい”な言葉を紡ぐことはできないんじゃないか。そんな不安に駆られる貴司に八木が語るのは、この世に2冊しかない自分の詩集のうち1冊を送った相手の話だ。かつて自分が息をするためだけに書いていた詩を初めてあげたいと思ったその人は、本気で世界を変えるために戦っていたという。

〈けれども蝶の孤独な闘いに手を貸してやれるものはいなかった 蝶もそして茎も花も月もひとりぼっちなのだった〉

 “寂しくてきれい”と貴司が表現した八木の詩にこんな一文があった。いま生まれんとする蝶の孤独な闘いを、茎や花や月は見守り、その無事を祈ることはできても手を貸してやることはできない。人間もまた然り。どれだけ寄り添い合おうとも、一つになることはできない。相手の本当の本当を知ることはできない。それでも、できうる限りをあなたに。そんな八木の切なる思いが貴司には“寂しくてきれい”に感じられたのではないだろうか。

 八木が書いた詩と、貴司が舞に贈った〈君がいく 新たな道を 照らすよう 千億の星に 頼んでおいた〉という短歌は似ている。貴司も八木と同じで、自分が息をするためだけに詠んでいた歌をいつの間にか大切な人のために詠むようになった。それが突然詠めなくなったのは、その大切な人と家族になったからだろう。それまでは少し離れた距離から見守るしかなかった相手と家族になり、様々なサポートが可能となった。その過程で自分と相手がまるで一つになったように感じられ、その人のために短歌を詠むということができなくなったのではないか。

『舞いあがれ!』は桑原亮子にしか紡げない物語 歌人による脚本の深さと驚きをCPが語る

『舞いあがれ!』(NHK総合)第95回にて、貴司(赤楚衛二)が舞(福原遥)に贈った短歌が相聞歌であることが明らかになった。相聞歌…

 八木は自分で生きるのをやめてしまったその人のために詩を書き続けている。その人がいたことのある場所を歩きながら、その人の変わらぬ優しい声を聞くために。「ほな、ちょっと行ってくるわ」とまるで待ち合わせでもしているかのように、部屋を出て行く八木。あちらの世界とこちらの世界にいる2人は詩を介して今も共に生きているのだ。

「誰の声が聞こえる? 話したいこと見つかったら言葉にしてみ」

 でも同じ世界に生きていたって、家族になったって、私たちはやっぱり一つにはなれない。今まさに進行中である貴司の孤独な闘いに舞が参戦できないように。今回、貴司は舞と物理的な距離を置くことで、改めてそのことに気づくことができるのだろうか。舞に話したいこと、伝えたいこと。それが貴司の“寂しくてきれい”な言葉で表現される日を切に願う。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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