『舞いあがれ!』赤楚衛二が体現した幸せだからこその苦悩 貴司は新しい自分を求めパリへ

『舞いあがれ!』貴司は新しい自分を求め旅へ

 振り返れば、貴司が会社を辞めて五島に向かったのも、日本全国を放浪していたのも、根底には自分自身と対峙することにあった。<君が行く 新たな道を 照らすよう 千億の星に 頼んでおいた>は、航空会社「博多エアライン」の内定を辞退して、株式会社IWAKURAで働き始めた舞に貴司が五島から贈った短歌であり、彼自身もまだ気づいていない、気づこうとしていない舞への恋心が見え隠れしている歌だった。

 リュー北條の「苦しんでこそいい歌を詠む人だ」という一言に、貴司の脳内には幼い頃に八木に言われた詩人としての話がリフレインする。船に乗ってみんながパーティーをしている時に、自分は息が苦しくなる。冷たい海に飛び込んで、底へと潜っていき、海底に咲いている花を掴み取って船に戻った時、やっと息ができる。その花が八木にとっての詩なのだと。

 貴司はフランス・パリにいる八木に会いに行くことを決める。そこには頼みの綱としての思いと、新しい自分を発見しに行く旅としての要素も幾分あるだろう。時は2020年1月。我々はその空路が冷たい海に飛び込む行為であることを、その未来にある苦しみを知っている。

 『舞いあがれ!』は東大阪の町工場や航空大学校などへの徹底した取材から物語にリアリティを浮かび上がらせているが、貴司の物語は脚本家であり、歌人でもある桑原亮子自身からより強く湧き上がってくるものだ。舞と貴司が思いを確かめ合ったパートと同様に、セリフ一つひとつが説得力を持ち、赤楚衛二がその幸せと相反する歌人としての切実な苦悩を体現している。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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