『舞いあがれ!』ジャンルミックスな物語の根幹にある“やり直し”のテーマ

『舞いあがれ!』の根幹にある“やり直し”

 『舞いあがれ!』第24週のサブタイトルは「ばんばの歩み」。「歩み」はばんばこと祥子(高畑淳子)の歩いてきた道(歴史)であり、舞(福原遥)と貴司(赤楚衛二)の間に生まれた子供の名前・歩でもある。

 3月17日の『あさイチ』(NHK総合)のプレミアムトークに出演した福原遥が視聴者の投稿で、「歩」とは、浩太(高橋克典)がまめにつけていた日記が「歩みノート」にかかっているのでは、という感想を肯定していた。

 第112話で歩という名前に決めたときの舞には「何があっても負けんと前に進んでほしい」とがむしゃらな印象を受けたが、『あさイチ』で福原が語った一歩、一歩、歩いていくという実直さを押し出したほうが良かったのではないだろうか。演者が一番、役を理解しているともよく言うことだが、まさに、である。

 ただ、祖母の歩み、父の歩み、舞の歩み、そして娘の歩み……代々、一歩一歩歩いて、駅伝のようにバトンを手渡していくというイメージは美しい。

 歩が生まれたのと同時に、元気だった祥子が脳梗塞で倒れてしまう。軽いもので命に別状はなかったが手足の痺れが残り、生きがいであった船にはもう乗れない。ひとりで生活することも難しいため、めぐみ(永作博美)に東大阪で同居しようと持ちかけられるが迷う。

 めぐみはゆくゆくは五島に戻ることを前提に、IWAKURAを長年尽くしてくれた社員・章(葵揚)に譲ろうと決める。しばらくは東大阪で祥子に暮らしてもらい、やっぱり五島に戻りたいようなら一緒に戻れるように準備をはじめるのだ。

 序盤の重要なエピソードである祥子とめぐみの母子の確執は、すでに解決してはいたが、長らく一緒に暮らしていなかった時間をここへ来て埋めていく。

 『舞いあがれ!』の熊野律時チーフプロデューサーは、このドラマは、どれだけ時間が経過してもやり直すことができることを描いているとおりにつけ語っていて、それは、パイロットの夢を諦めた舞が、いつか必ず再び舞いあがるという主軸となっているのは明白である。ここへ来て舞よりも一足早く、祥子とめぐみのやり直しも行われる。

 祥子が倒れたのと同時に長らく愛用してきたラジオが壊れてしまう。これまで何度も修理しながら使い続けてきたものだ。亡き夫の形見でもある。もう諦めたところ、東大阪の町工場の職人がラジオを直してくれる。長年住み慣れた五島を離れ、見知らぬ東大阪にやって来た心細さがラジオの復活によってほんの少し払拭される。祥子もまた東大阪の人々によって修繕されて生き直すのだというイメージがラジオによって浮かび上がるのも、「歩み」という言葉の連なりと並んでまた美しい。デラシネで沢村貞子の『私の台所』に出会って、興味津々読んでいる祥子の姿もいい。生活環境は違っても台所は小さな、わたしの世界、わたしの宇宙なんだなという哲学的なものを感じさせる。そして、祥子はジャムを、舞とめぐみと共に作るのだ。

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