原作者・久住昌之が振り返る『孤独のグルメ』の10年間 松重豊の役者魂への感謝も

原作者が振り返る『孤独のグルメ』の10年間

 もはや「年に一度のお楽しみ」と言っていいくらい、定例の風物詩になった『孤独のグルメ』(テレビ東京系)シリーズ。秋から冬にかけてテレビ東京の「ドラマ24」枠で新シリーズが放送される→12月31日に『大晦日スペシャル』がオンエアされる→年が明けると、その新シリーズと『大晦日スペシャル』も収めたBlu-ray&DVDボックスが発売される。

 2022年に至っては、12月31日はその22時から23時半の『大晦日スペシャル』以外にも、7時45分から13時30分まで、1月1日は9時から17時55分まで、延々と『孤独のグルメ』が再放送された。「さすがテレ東」というか、「いくらテレ東でも」というか、なんだか凄いとしか言いようがない事態だが、重要なのは、「その方が数字が取れる」とテレ東の編成が判断したことと、「そんな再放送のしかたができるドラマ、テレ東にも他局にも存在しない」という事実だと思う。そんな素敵な事態の大元を作った原作者・久住昌之に、1年前に続いて話を聞いた。(兵庫慎司)

いつ終わってもいいと思いながら10年

ーー今回、ボックスに特典として、10年前の第1話のオーディオコメンタリーが付いていますが。観直してみて、いかがでした?

久住昌之(以下、久住):いやあ、「手探りだなあ」って。「腹が、減った」で、画がポンポンポンと引きになっていくシーンは第1話からあったけど、他はほとんどスタイルが決まっていない感じで。どういうふうにしたらいいか、困ってたのを思い出しましたね(笑)。松重さんもまだ固まってないしね、五郎感が。時代も変わってるよね、第1話ではまだ煙草も吸っていてね(笑)。

ーー10年経てば、世の中も変わりますよね。

久住:コロナもあったから、ますます孤食っていうのが注目されたよね、特にこの3~4年は。10年前は、孤食なんて言葉もなかったし。食もそうだけど、ソロキャンプとか、10年前はなかったから。そういう時代の流れと偶然重なった、みたいなところもあるんだろうね。あと、10年前のドラマの第1話を観たら、メシを食うまでにすごい時間がありましたね(笑)。で、食う時間が短かった。今はすぐ店に入っちゃうもんね。だから、食べるシーンの描写が、前より丁寧になって、細かくなってる。『ふらっとQUSUMI』なんか、どんどん短くなっていくもんね(笑)。でも、またそういう初期みたいなのをやってもいいな、とも思ってね。なかなか食べないで、食べるところはあっさりでもおもしろいかもしれない、とか。

ーーじゃあ10年やっても、「こういうことをやりたい」というのは途切れないんですね。「もういいか」じゃないんですね。

久住:いや、「もういいか」も、「まだやりたい」も、両方ないですね。いつ終わってもいいと思いながら10年、っていう感じだからね。スタッフが楽しんで作れるうちは、できるかもしれない。ひとりでできることじゃないからね。

ーーただ、おいそれと終わらせてはもらえないシリーズになってしまいましたよね。

久住:いやいや。だけど、こんなに再放送が多い番組になるとは思わなかったよね(笑)。

ーー大晦日と元日、延々とやってましたね。

久住:あれ、ずるいよね? あれで休んでるよね、テレ東は(笑)。だって昔は、年末年始は特番で6時間ドラマとかやってたじゃない?

ーー確かに「テレ東すごいな」と思いましたけど、ただ、観ながら、「他のどのドラマだったら、こんなことをやって成立するんだろう」と考えたら、ないんですよね。

久住:どうしたんだろうね、世の中(笑)。こんなことになるとは、誰も思ってなかった。しかし、10年経っても、松重さん、ちゃんと相変わらずなところがすごいですね。役者魂だなと。俺は年とってるから、こんなにしょっちゅう再放送されるの、イヤなんだけど。テレビだけじゃないじゃない?

ーー各配信サイトでも観られますしね。

久住:飛行機の中でまでやってるからね。でもちょっと、ドキュメンタリーみたいだよね。松重さんが実際に食べているってことも含めてね。時代とか、年齢とか、その時考えてることとか、そういうものがみんな出ちゃう。

孤独のグルメSeason10

ーー最新シリーズである『Season10』で、特に印象に残っている回を挙げるとしたら?

久住:特に印象に残ってるのは、富山の店ですね(第8話「富山県富山市のかに面おでんと海鮮とろろ丼」)。あれは、僕の『ふらっとQUSUMI』の撮影を、松重さんの前々日に撮っちゃったのね。で、僕の撮影が終わってから、照明とカメラの場当たりをずっとやってたの、スタッフが。それが終わってから、みんなと一緒にロケ車でホテルに連れて帰ってくれる、ということだったんだけど、そこの料理が旨すぎて。どんどん酒を出してくれて、ずーっと待ってたら、ベロッベロになっちゃって(笑)。次の日、スタッフに「昨日、呂律回ってませんでしたよ」って言われて。『孤独のグルメ』ロケ史上いちばん酔っぱらった、あの時が。あと……第1話の吉野食堂(「神奈川県相模原市橋本の牛肉のスタミナ炒めとネギ玉」)、スタッフ、「よくあそこ見つけたなあ」って思いました。駅から遠いしね。僕、前にあの店を、別のマンガに描いてたんですよ。偶然見つけて、「これはいいぞ」って思って。

ーーえっ、スタッフが、その久住さんのマンガを読んで知っていたわけではなく?

久住:読んでない。それは過去に3回あるんだよね。『Season4』のみゆき食堂(第1話「東京都清瀬市のもやしと肉のピリ辛イタメ」)は、自分がマンガに描こうとして、断念した店で。それをスタッフが見つけて、ドラマにしたの。僕は何も話してないのに。びっくりしました。びっくりしたついでに、放送されたのを観た谷口ジローさん(原作の作画担当。2017年逝去)が、びっくりしてた。昔いつもアシスタントと、メシ食いに行ってた店なんだって。

ーーはあー。スタッフに、お店に対する「久住昌之的選球眼」が備わっているんですね。

久住:いやあ、そうとしか思えませんね。おいしいっていうだけじゃなくて、『孤独のグルメ』に出そうな店っていう。10年で3回って、なかなかの打率だよね。しかも、1回、すごい変化球もあって。大阪の屋台の串かつ屋、おばあちゃんがやっている店があって(『Season6』第1話「大阪府美章園のお好み焼き定食と平野の串かつ」)。僕は全然知らない店ですよ。ところが、そのおばあちゃんの息子が、田町で串かつ屋をやっていて。そこは俺、『食の軍師』ってマンガで描いたんだ。そのお母さんの店を、『孤独のグルメ』のスタッフが見つけてきたドラマにした。びっくりしましたね。もうひとつは、淀橋青果市場の中の食堂(『Season6』第2話「東京都新宿区淀橋市場の豚バラ生姜焼定食」)。そこも僕と泉さん(泉晴紀)で見つけて、描いたら、『孤独のグルメ』のスタッフも見つけてドラマにした。その時は確か、スタッフがマンガを読んだんだけど、その時はもうロケハンも終わっていて、「これ、ダブっちゃうのはいいですか?」という電話があったんだ。でも、最近はしばらくそういうこともないな、と思ってたら、『Season10』の第1話でドカンときた。よくやるなあと思う、スタッフ。いつも感心します。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる