原作者・久住昌之が振り返る『孤独のグルメ』の10年間 松重豊の役者魂への感謝も

原作者が振り返る『孤独のグルメ』の10年間

「おいしいんだけどつまんない」っていう店もある

ーー五郎さんもそうだし、久住さんもそうですが、検索でお店を探さない、というポリシーがありますよね。

久住:ポリシーっていうか、検索すると、検索したものしか頼まないんだよね。自分の頭を使わないところが、オリジナルな発想ができないっていうか。検索して、「この店は焼肉定食が旨い」って出てくると、どうしても焼肉定食を頼んじゃうんだよね。何も考えてないじゃん、それは。作る人っていうのは、自分の頭で考えなきゃダメだからね。検索して出てきたものを頼んで、食べて、「ああ、ほんとにおいしい」って、それはネットをなぞってるだけで、なんにも作ってないから。あと、調べる時間がもったいないんだよ。地方に行くと、道端でずっとスマホを見てる人いるじゃん。もったいないよ、その地方に来てんのに。歩いた方がいいよね。もし食べ物屋が見つかんなくても、違うものが見つかるからね。

ーー自分もそうなので耳が痛いですけど、ああやって調べている人は、失敗したくないんでしょうね。

久住:まあそれはあるよね。ただ歩いても、ほんとにみつかるかどうかの確信はない、それが怖いんだろうけど。でもそんな、歩いて探せないほどでっかい街、ないからね。

ーーあと、久住さんの場合は、失敗したら失敗したでおもしろい、というのは?

久住:ありますね。失敗した時は、すっごい悲しいですけど、悲しい話はみんなが笑うからね(笑)。それで成仏っていうね。そこまではイヤですよ、「ひどかったなあ、あの店」って。

ーーただ、エッセイやコラムでも、そういう店については書かないですよね。『勝負の店』(2022年9月刊行のエッセイ集)を読んでいて、ここに載っていない膨大なハズレの店もあったんだろうなあ、と思ったんですが。

久住: (笑)。いや、膨大にはないけど、たまにはありますよ。それは書かないけど。その店がかわいそうだから。

ーー書いたら絶対おもしろいと思いますが。

久住:いや、だから、完全に創作で書く時には使えるんじゃないですかね、元ネタとして。すっごい不味かったっていう経験は、深く心に刻まれるんで。その店がつぶれたりすると、「ああ、晴れて名指しで書けるな」とか(笑)。

ーー『勝負の店』で印象的なのが、「この店はいいのか、つまらないのか」という一文で。「うまいのか、まずいのか」ではないという。

久住:ああ、「おいしいんだけどつまんない」店もあるからね。たとえば、大手のチェーンの店って、つまんないんだよ。「あの圧倒的なつまんなさはなんなんだろう」って思うんだよね。食堂大好きな俺が、別に不味くないのにつまんないんだよ。ちゃんとおいしいし、ちゃんと清潔で、対応もいいのに、つまんない。だから自分は、おいしいも大事だけど、おもしろいが相当大事みたいだよね。今、佐賀の本を書いてるんですよ。それで6年ほど佐賀に通っていて。最初に入った店が、すごい当たりの食堂で……普通の定食屋なんだけど、ホワイトボードに、見たことがないのが書いてあって。「あれ、なんだろう?」って言ってたら……カウンターで、赤いツナギを着たおっちゃんがビールを飲んでたんだけど、急にこっちに来て「一番ノリ!」って、黒いものを出したんだよ。ギョッとするじゃん。そしたらね、その人、店長だったんだよ。有明海で一番に採れたノリなんだよ、一番乗りじゃなくて。それでボソボソッと、「ノリっていうのは、何回も採れるんだけど、一番に採れたノリが一番おいしくて、香りも味もいいんだ、食べてみて」って言って、厨房に入って行ったから、「あの人、店長だったんだ」って(笑)。それは忘れないし、その時食べた一番ノリは、ものすごくおいしかったし。その店長の現れ方と共に、記憶に刻み込まれた。そういうのは、やっぱりおもしろいですね。

ーーやはり、旅ってかなり重要ですよね。

久住:重要ですね。知らない世界っていうのは、刺激あるよね。見たことないお酒が並んでたり。鹿児島に行った時は、二階堂とか、いいちことかが、見たことがない瓶で並んでいて、全部20度で。

ーーえっ、そうなんですか?

久住:そう、鹿児島の人は25度を飲まない、20度なんだって。そういうのがおもしろいよね。しかも、この間は、佐賀県の鹿島っていう街に行ったんだけど、この3年ぐらいで、ちっちゃい店も、ほんとにみんな俺のことを知ってくれるようになったね。4年前に行った時は、誰も知らなかったのに。大晦日の放送を何回か経たからじゃないかと思うんだけど。

ーー(笑)。確かに。

久住:「あれ? 久住さん」とか言われて、サインは書くわ、写真は撮るわ。こんなにサインしたことないくらいだよ。キムタクが行ったような状態(笑)。鹿島もそうだし、福井に行った時も、市長とか現れちゃうし。

ーーそういえば、『かっこいいスキヤキ』が、竹内力主演でドラマ化されますが (※テレビ愛知制作、3月18日16:00~17:15にテレビ東京系列で全国放送)。あれ、デビュー作だったんですね。

久住:そうですね。21歳かな、描いたのは。

ーーあの時点からもう、食と旅なんですよね。『夜行』とか。

久住:そうだね、モノローグでね。今とおんなじだよ。40年間のワンパターンだね。定食屋に行って、「このお店、何年ぐらいやってるんですか?」とか訊いて、「そうねえ、38年になる」「おお、すごいですねえ!」って言ってるけど、自分の方が長いっていうさ(笑)。

ーー『夜行』、当時僕は、ギャグマンガとして読んだんですがーー。

久住:いや、全然僕はギャグとして描いてない。

ーーはい。僕も『孤独のグルメ』を含む、後の久住作品は、ギャグとして読んでないのに。

久住:おもしろいマンガを描きたいっていうのはあったけど、ギャグっていう観念はなかったですね。あの画だしね。

ーーあの画で、列車の中で幕の内弁当のおかずをどの順番で食べるかについて、シリアスに悩むさまを描く。ということに、「こんな方法があったのか!」と驚いたんですが、それ、以降の久住作品と同じなんですよね。

久住:『食の軍師』は、漫画ゴラクで連載したっていうのもあったから、わりとギャグに寄せて考えてたけど。そうじゃない時は、べつにギャグじゃないし、マンガだけど、マンガらしくなくていい、というのが、最初からあったんだね、きっとね。いわゆるマンガらしいということは、自分ではテクニカル的にできないと思ったんですよ。マンガで売れてる人っていうのは、まず圧倒的に画がうまくて……ヘタウマなんてのは、当時はまだなかったし。それで、泉晴紀と組んだんだけど、泉さんの画を見た時、「これは絶対に売れない画だな」と思って(笑)。あの画でこんなことを描いたら、読んだ人はすごく戸惑うだろうなと思って。

ーーはい、戸惑いました。

久住:戸惑いながらも、最後まで読むと、おもしろいと思うんじゃないかな、と。ギャグっていう気持ちは、全然なかったな。っていうのは、ギャグって古くなるんですよね。その時どんなにウケてもさ、次の世代の人には「何これ?」みたいになるじゃない? そういうことはやりたくないなと。で、泉さんの画を観た時に「もう古い!」と思って。

ーーはははは。

久住:デビューの時から古いから、これ以上古くなんないな、と(笑)。

ーーで、『孤独のグルメ』では、その画が谷口ジローになったことにも、驚きました。

久住:そうだね。でもやっぱり、泉さんの画だったらこうなったらおもしろいんじゃないか、っていうのもあるし、谷口さんの画だったらこういうふうにするのはどうかな、というふうに、発想も変わるんで。だから、谷口さんと『孤独のグルメ』を描いて、そのあとドラマになるわけだけど。その時やっぱり、僕の頭の中で大転換をしなきゃいけないわけですよ、松重さんという主人公になるから。松重さんのあの歩き方で、あの声で、あのしゃべり方だったら、こういう言動をするのが松重さんの井之頭五郎だろうと。音楽を作るのも、松重さんに合わせたイメージの曲を作って、これが流れて、松重さんが歩いてくれば、松重さんの井之頭五郎になる。そういうのを作っていくのが、おもしろかったですね。ドラマは監督のものだと思ってるんで、それに対して、自分が言葉とか音楽で何をできるか、っていうところですね。

■リリース情報
『孤独のグルメ Season10』
3月24日(金)Blu-ray&DVD発売
●Blu-ray-BOX(本編Blu-ray3枚+『孤独のグルメ 2021大晦日スベシャル & 2022大晦日スベシャル』1枚+特典Blu-ray1枚/全5枚組)
価格:21,450円(税別)

●DVD-BOX(本編DVD3枚組+『孤独のグルメ 2021大晦日スベシャル & 2022大晦日スベシャル』1枚+特典DVD1枚/全5枚組)
価格:16,500円(税別)

【封入特典】 
「孤独のグルメ Season10」BOOK

【特典映像】
・MAKING OF 孤独のグルメ SEASON10~10年目もいただきます!~
・ザ・ドキュメント 2022大晦日SP~定点カメラで完全密着~
・すべてはここから始まった~Season1 第1話オーディオコメンタリー~
・孤独のグルメSeason10 ネ申台詞集
・スポット集

主演:松重豊
出演:久住昌之(ふらっとQUSUMI)
原作:『孤独のグルメ』作・久住昌之/画・谷口ジロー(週刊SPA!)
脚本:田口佳宏、児玉頼子
音楽:久住昌之、ザ・スクリーントーンズ
演出:井川尊史、北畑龍一、佐々木豪、中山大暉
チーフプロデューサー:祖父江里奈(テレビ東京)
プロデューサー:小松幸敏(テレビ東京)、吉見健士(共同テレビ)、北尾賢人(共同テレビ)
制作協力:共同テレビジョン
製作著作:テレビ東京
発売元:テレビ東京
販売元:ポニーキャニオン
©2022久住昌之・谷口ジロー・fusosha/テレビ東京
Blu-ray BOX:https://lnk.to/kodokunogurume10_BDTW
DVD BOX:https://lnk.to/kodokunogurume10_DVDTW

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる