三浦透子の芝居はなぜ心を揺さぶるのか “尊厳”を描く『大奥』が再映像化された必然性

『大奥』が再映像化された必然性

 翻って、家重である。将棋では、周囲の小姓たちはもちろん、母・吉宗すら打ち負かすほどの腕を持ちながら、その「知性」を発揮する機会を持たない彼女の「鬱屈」に気づいた吉宗は、彼女にこう問いかけるのだった。

「役立たずだから死にたいと言うておったと聞いた。裏を返せば、それは生きるなら人の役に立ちたいということ……違うか?」
「そなたは、心の奥底では人の役に立ち、それを己の生きる意味とすることを求めておるのではないか?」

 家重を、ここまで追い込んだものとは何だったのか。それは自身の「障がい」ではなく、周囲の人びとからの「偏見」であり「予断」という、あくまでも「人為的」なものだった。「制度」や「しきたり」、「慣習」……あるいは、その根底にある人々の「価値観」のようなもの。人を縛り付け、追い込むものが、「人」によってつくりだされたものであるならば、それを解き放つのもまた「人」なのだ。そう、今回のドラマ『大奥』のテーマは、実はそこにあったのではないだろうか。

 「男女逆転」という構図を用いながら、「産む側」に「権威」を与え、その「主体」とすることによって、「血」に執着する社会というものを、よりグロテスクな形で描き出してみせた本作。しかしながら、本作が描き出してきたものは、それだけではなかった。家光の本名・千恵と、自らの本名・有功の文字を織り込んだ、<凍え雛 一羽身を寄せ 坊主雛 千の恵や 功有らんと願ふ>という歌を詠んで、家光に手渡したお万の方。綱吉に向けて、やがて「生きるということは、女と男ということは、ただ女の腹に種をつけ、子孫を残し、家の血をつないでいくことだけではありますまい!」と説くに至った右衛門佐。そして、「役立たずだから死にたい」という家重の思いを、「人の役に立って生きたい」という思いの裏返しであることを看破した吉宗。そう、その「尊厳」を踏みにじるものが、あくまでも「人」によって生み出されたものであるならば、それを解き放つのもまた「人」なのだ。それこそが、今回のドラマ版が視聴者に向けて打ち放つ、いちばん大きなメッセージだったのではないだろうか。

 しかし、これまでの話は、あくまでも「大奥」という「内部」における話だった。「大奥」という、人の「尊厳」を奪われた場所で、人と人がどのように心を通い合わせ、どう互いに解放されてゆくのか。そこに今、「大奥」の「外部」から、さらなる「脅威」が押し寄せている。男女逆転の端緒となった赤面疱瘡の再びの流行だ。第8代将軍・吉宗は、ついにそれと本格的に向き合うことを決意する。「制度」や「仕組み」といった人為的なものではなく、「感染症」という超自然的な「脅威」に立ち向かうとき、人々はどんな行動に打って出るのだろうか。そのとき、人々の「尊厳」は、いかに担保されるのか。あるいは、それを邪魔立てするものがあるとしたならば、それは果たして何なのか。いわゆる「コロナ禍」を経て、超自然的な「脅威」に対する「感受性」がますます鋭敏になってきている今、この物語が描き出される「必然性」は、いよいよ高まってきている。

■放送情報
ドラマ10『大奥』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送
出演:福士蒼汰、堀田真由、斉藤由貴、仲里依紗、山本耕史、竜雷太、中島裕翔、冨永愛、風間俊介、貫地谷しほり、片岡愛之助ほか
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
制作統括:藤並英樹
主題歌:幾田りら
音楽:KOHTA YAMAMOTO
プロデューサー:舩田遼介、松田恭典
演出:大原拓、田島彰洋、川野秀昭
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社

 

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