『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』に内包されていたシビアで恐ろしいメッセージ
前提が変わったことで“パーフェクト”というものの定義そのものも大きく変容している。“ありのまま”、すなわち人間においてもロボットにおいても本来の状態からかけ離れた状態こそが、“パーフェクト”の正体ということになるわけだ。その相対性に気が付くと、劇中のなかで連呼される“パーフェクト”という言葉が実に恐ろしいものに聞こえてくるのである。それを目指したくなるという欲求をのび太に持たせ、その異和に徐々に気付かせていく劇中。ジャイアンとスネ夫としずかという、“ありのまま”が周知されているキャラクターの変化で観客もその明確な異和を味わうことができるとはいえ、なんてシビアで恐ろしい『映画ドラえもん』であろうか。
とはいえ結果的には、人間もロボットも“ありのままでいい”、あるいは“ありのままがいい”のだという、穏やかで直接的な多様性尊重のメッセージに落とし込まれる点は、近年の『映画ドラえもん』らしい。
クライマックスで示されるソーニャの顛末、ロボットにおける輪廻転生ともいうべきその展開は、前述の『鉄人兵団』のリルルのラストを想起させ、ここでもまたロボットという存在が時代と共に変化していることが表れている。また、のび太の暮らしている街が“ユートピア化”の標的にされるあたりは、今作と同じように“空”への憧れを軸とした『ドラえもん のび太と雲の王国』(以下、『雲の王国』)での“ノア計画”にも通じている。のび太にとっての“現実”が危難に晒されるというのは、“空”がそれだけ現実と近しいものであるということの証左だ。
『雲の王国』では終盤に環境問題への直接的な警鐘が鳴らされたように、『空の理想郷』は現代の子どもたちに“生き方”を問いかける。“空”を舞台にした『映画ドラえもん』は常に、そこで描かれるのび太たちの物語を通してよりダイレクトで今日的なメッセージを観客の現実へ訴求しようとしているのかもしれない。
■公開情報
『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』
公開中
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、井上麻里奈、水瀬いのり、永瀬廉(King & Prince)、山里亮太(南海キャンディーズ)、藤本美貴
原作:藤子・F・不二雄
監督:堂山卓見
脚本:古沢良太
主題歌:NiziU「Paradise」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
©︎藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2023
配給:東宝
公式サイト:https://doraeiga.com/2023/