『HERO』は“久利生らしさ”が光る社会派群像劇 木村拓哉が声なき者の声を代弁する
『土曜プレミアム』(フジテレビ系)で、2015年公開の映画『HERO』が3月11日に放送される。
木村拓哉演じるデニムにダウン姿の型破りな検事・久利生公平。それに個性豊かな東京地検城西支部の面々(もちろん名物警備員も含む)、怪しげな深夜の通販番組に、久利生行きつけのバー「St.George's Tavern」のマスター(田中要次)の「あるよ」など……あの世界の住人にまた会えると思うと、それだけで心弾む。あまりに魅力的なキャラクターたちゆえ、どれだけ久々に彼らにお目にかかってもすっと溶け込めてしまえる自分に驚くくらいだ。
2001年のドラマ放送時から人気を博し、主演の木村にとっても代表作の1つとも言える本作。2007年公開の映画第1弾は大物ゲストの登場や韓国ロケなどが話題になったが、今作では派手な演出は抑えられ、より“久利生らしさ”が光る社会派群像劇が繰り広げられる。
大使館前で起きたパーティーコンパニオンの女性が車にはねられて死亡する不可解な事故を調べ始めた久利生と事務官の麻木(北川景子)。この被害者女性が、久利生の前の担当事務官で、現在は大阪地検の難波支部の検事となった雨宮(松たか子)が追っている広域暴力団が絡んだ恐喝事件の重要証人でもあることから、第1シリーズヒロインと第2シリーズヒロインが集結することになる。
事件の舞台は治外法権に守られた“絶対領域”である大使館、そのため彼らの前には“外交特権の壁”が立ちはだかる。事件の大小にかかわらず気になったことは納得できるまでとことん追求し、自分の中にある正義を貫く久利生がこの大きな壁をどう乗り越えていくのか見ものだ。
先入観や固定概念などなしにフラットな目線で相手のことをまずは知ろうとする久利生の姿勢は、関係者を巻き込み、国籍も杓子定規なルールをも超えていく。“久利生ワールド”全開な様子を目の当たりにできるのは痛快だ。はなから諦めてしまえる理由なんていくらでもあるのに、自分の危険も顧みず、信念に沿って突き進む。しかし、わかりやすく熱血漢といった風情は一切なく、どこか脱力系で低体温にも見えるものの、内に秘めた熱量が一気に噴出するシーンは火傷しそうになるほど熱い。そして独善的な正義感を振りかざし断罪するようなことも決してしない。とにかく真っ直ぐで優しく、人への興味が尽きない。こんな魅力的な久利生を演じられるのはやはり木村だけだと改めて思わされる。
そんな久利生にいつの間にかほだされ、気がつけば同じ方向を見て真相究明のために動いている城西支部の仲間たちの息ぴったりのチームワークも気持ちいい。普段はバラバラで曲者揃い、まとまりがあるのかないのか分からない彼らの、ここぞという時に団結するあの底力や空気感がたまらない。真ん中にいることにこだわりがあるわけでもなく、むしろ中心を周囲に譲り渡していながらも気がつけばどうしたって“センター”に呼ばれてしまっている久利生と木村自身の姿が重なる。