『HERO』は“久利生らしさ”が光る社会派群像劇 木村拓哉が声なき者の声を代弁する

『HERO』木村拓哉は小さき声の代弁者

 そして、なんと言っても8年ぶりに再会を果たすことになる久利生と雨宮の相変わらず息の合った軽妙な掛け合いがクセになる。一見したところ常識的な雨宮が最初は突拍子もない久利生のことを制止しようとするが、互いに影響を及ぼし合いながら、最終的には誰よりも強力な味方でサポーターになっている、あの2人の稀有な関係性をまたなぞりたい。身体的接触もなく、“いかにも”というシチュエーションも用意されず、それでも彼らが誰よりお互いを信頼し合っていることが随所で伝わる。

 相手の本音や事件の真相に近づく時、何か引っ掛かりを覚えた際、久利生の眼力が鋭くなり、くもりなき眼がアップにされる。こちらをじっと射抜くような眼差しが時折差し込まれるが、木村の明るく薄い茶系の瞳の色も相まって何もかもを見透かされてしまいそうになる。「本当に?」――そんな声が聞こえてきそうだ。それは自身の本音なのか。見えている真実が全てなのか。それはA面でしかなく、本当にB面はないのか。そんなことを真っ直ぐに問いかけてくる。

 軟派に見えて硬派で、ただただ清廉潔白な正義の持ち主であれば見落としてしまいそうな人の弱さや二面性を取りこぼすことなく掬い上げ、“見えない真実”にたどり着く久利生は、小さき声の代弁者だ。そんな彼の軽やかで、柔らかでしなやかでさりげない優しさが誰かの“なかったことにされた痛み”にそっと触れる瞬間をまた目の当たりにしたい。

■放送情報
『HERO』
フジテレビ系『土曜プレミアム』にて、3月11日(土)21:00~23:20放送
出演:木村拓哉、北川景子、杉本哲太、濱田岳、正名僕蔵、吉田羊、松重豊、八嶋智人、小日向文世、角野卓造、松たか子、佐藤浩市
監督:鈴木雅之
脚本:福田靖
音楽:服部隆之
©2015 フジテレビジョン ジェイ・ドリーム 東宝 FNS27社

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる