『舞いあがれ!』が大切にする“ゆっくり”の精神 “猛スピード”の八木莉可子が物語を動かす
舞と柏木は急ぎ過ぎた。悠人のインサイダー取引も早急に成果を出そうとした。昨今、タイパやコスパを気にして、映像を早送りしたり、ショート動画をさくさく観見ていったりするように、どんどん即決して進んでいかないと取り残される不安感がある。が、そんなに急いでばかりで何が残るのか。急ぐことも大事なときもあるけれど、あせらず、なにごともゆっくり時間をかけること、心のすき間に入り込む雑念のようなものを、ゆっくり育み、自分のなかで整理していくことが大事なのではないか、『舞いあがれ!』はそう問いかけているような気がする。
ただし、物産展の2週間はあっという間に過ぎたけれど……。
悠人は、懲役3年、執行猶予5年という長い時間のなかで、ゆっくり償い、再出発すればいい。悠人を助けた佳晴(松尾諭)も20年近く定職についていない。久留美は佳晴を急がせない。
舞も、貴司も、早々と結論を出さなくてもいい。そういうことなのかなあと思ったら、貴司の短歌のファンだという秋月史子(八木莉可子)が登場し、猛スピードで貴司に接近してきて、もうこれ以上ゆっくり気持ちを熟成している猶予もなくなってきたようである。
「怒り」や「絶望」を短歌にぶつけてほしいというリュー北條(川島潤哉)に対して史子は貴司の短歌を「淡いところがすばらしいんです。世の中の醜いものにあえて背を向け小さな美しいものに希望を見出しておられるんです」と反論する。怒りも絶望も本来、長い時間をかけて熟成されるものでもあるが、これも昨今は瞬間で消費されがちな感情である。淡くて小さな美しいものは、椿の木に心寄せるようなものであろうか。北條の座っていたデラシネの庭のテーブルの上に乗ったガラス細工がかたつむり。これもまた「ゆっくり」の象徴であろう。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK