チェ・ミンシク演じる主人公の人生をどう評価する? 『カジノ』が視聴者に問いかけること

『カジノ』が視聴者に問いかけること

 すごい時代になってきた。『パラサイト 半地下の家族』(2019年)、配信ドラマ『イカゲーム』の世界的ヒットに続き、『Pachinko パチンコ』や『地獄が呼んでいる』、『再婚ゲーム』など、韓国製作、または韓国を題材とした質の高いドラマ作品が、続々と登場して各国で楽しまれているのだ。間違いなく、これまでで最も韓国映画、ドラマが熱視線を浴びる時代が到来したといえる。

 ここで紹介する配信中のドラマ『カジノ』(第1シーズン全8話)は、『Pachinko パチンコ』同様、貧しく困難な境遇を生き延びて、抜け目なく成功をつかみ取っていく、ある韓国人のワイルドな一代記と犯罪や陰謀を描くドラマシリーズだ。先日第1シーズン分が全て配信され、早くも2023年内に配信するという第2シーズンにて物語の完結が予定されている。それにしても、マーティン・スコセッシ監督のギャング映画のアジアドラマ版といえるような、腰の据わった性質の作品に大きな予算がついて、アメリカはじめ世界の視聴者の興味を喚起するようになったことは驚異的なことだ。まさに新時代の到来と言っていい。

 『オールド・ボーイ』(2003年)や『悪魔を見た』(2011年)で、鬼気迫る演技を見せたチェ・ミンシクと、少年期、青年期の俳優たちがここで演じるのが、「カジノ王」と呼ばれるまでに財力を手にする、主人公のチャ・ムシク。優れた頭脳と商才、そして人を惹きつけるカリスマ性と“ど根性”で、裏社会をのしあがり、カジノバーに光明を見出して、フィリピンに開いた賭博場の経営で荒稼ぎしていくのだ。

 本作の見どころは、何といってもムシクの詐欺的な手腕によって、金儲けが面白いように成功していく小気味の良さだろう。その片鱗は、少年時代のムシクが、新聞の売り子をしていたときに垣間見える。そこでおこなわれた、売値をごまかして手取りを大きくするという狡猾な手法は、のちのムシクの金儲け術を集約するものだ。彼は、合法、非合法によらず、ルールの穴を突いて利益を出すことに、とくに天才的な感覚を持っている。

 次第に権力を拡大し、裏の世界で我が物顔に振る舞うようになるムシクを追うことになるのが、ドラマ『D.P. -脱走兵追跡官-』、『私の解放日誌』、そして映画『犯罪都市 THE ROUNDUP』(2022年)に出演し、注目を集めているソン・ソックが演じる捜査官である。その活躍が見られるのは、物語の佳境に焦点が移っていく第6話以降となる。

 本シリーズの監督は、マ・ドンソク主演で高い評価を獲得した映画『犯罪都市』(2018年)の、カン・ユンソン。この作品でマ・ドンソクの魅力を十二分に引き出したように、本シリーズでも俳優の持ち味を引き出している。ときにずる賢く、ときに命を張って気概を示すような鬼気迫る演技を見せるチェ・ミンシクや、捜査を進めていくソン・ソックはもちろん、『幼い依頼人』(2019年)のイ・ドンフィ、『イカゲーム』のホ・ソンテ、そしてイ・へヨン、ソン・ウンソ、リュ・ヒョンギョンなどが、それぞれに強い印象を残す。

 本シリーズが描く大きなテーマは、手段を選ばずに金を儲けることの倫理的な問題と、たくましくルールの穴を見つけて利益を得ることの快感との間に生じる軋轢にあるだろう。「ビジネス」という言葉の意味が、仕事で金を儲けることであるのなら、大きな利潤をあげるビジネスを成功させるのには、多かれ少なかれ詐欺師のような才能が必要になるのではないか。

 それでは、自宅に違法な賭場を運営するような、ならず者を父親に持ち、貧困のなかでいつも腹を空かせ、闇のビジネスに手を出していく、波瀾万丈な人生を送ってきたムシクの境遇は、現代の社会から見て“絶対悪”とみなすべきものなのかという疑問が発生する。なぜなら、世の中のさまざまなビジネスや社会システムのそこかしこに、多かれ少なかれ人を欺こうとするような要素が内在し、それが仮に違法であっても、逮捕や起訴を逃れている者たちが少なくないからだ。

 ムシクは本シリーズで、フィリピンの高級ホテルのコンプ(マイレージ)を安値で買い漁り、そのポイントを利用して部屋を提供することで現金化したり、ビュッフェを好きに使うことができるようになる。この利点を活かし、彼は政治家、財界人などの有力者に無料で会合の場やコストを負担することで、権力とのパイプを得るようにもなっていく。そういった天才的な手腕のおかげで、彼の地位は盤石なものとなり、少々のことでは逮捕や捜査されることもなくなるのである。

 この構図はまさに、抜け目のない悪党が、社会の支配層の側にまわったことを意味している。だが、それはこれまでに、韓国や日本を含めた、さまざまな国で実際に起きてきたことであり、いまも起こり続けていると考えられる事態である。一般人ならば軽微な犯罪でもすぐに逮捕され収監されることがあるのに、それよりも大きな規模の犯罪の裏側に君臨するはずの悪党が、なぜぬくぬくと豪邸で眠っていられるのかと、疑問に思うケースは少なくない。だからこそ、悪党は政治力や権力者との人脈を持ちたがるのだ。

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