『6秒間の軌跡』こんなに愛おしい主人公はなかなかいない! 高橋一生の一挙一動に釘付け

『6秒間の軌跡』高橋一生の一挙一動に釘付け

 「ヒュ~……ドン!」と夜空に花火が打ち上がり、人々の歓声が聞こえる。随分と遠ざかってしまったあの感動が、高橋一生演じる主人公・星太郎の揺れる瞳から伝わってきた。

 美しくも儚い花火の映像とともに幕を開けた連続ドラマ『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』(テレビ朝日系)第1話。歴史ある煙火店に生まれた星太郎は、自身も父・航(橋爪功)の跡を継ぎ、花火師になった。しかし、2022年夏、花火師にとっての書き入れ時に二人は暇を持て余している。新型コロナウイルスが収束せず、夏の花火大会が中止となったからだ。

 冒頭約5分、そんな親子の何気ない朝の一コマが描かれる。死別か離婚かはまだ分からないが、現在は母親が不在なのだろう。片付いているとも散らかっているとも言い難い部屋から、男二人暮しのリアルな生活感が滲み出る。

 会話の内容も自然。航は「花火大会のない夏なんて、夏と言わねえんだよ」と嘆いてはいるが、肩を落とすでもなく個人がオーダーする花火を始めようと息巻いている。一方、星太郎は客や関係者との綿密なコミュニケーションが必要とされる個人向けの商売には後ろ向き。一見何でもないような会話の中に、花火師としての苦悩や、どしっと構えた姿勢で時代の変化を受け止める父親と、新しいことを始める前に不安が先立つ息子という親子の考え方や性格の違いを入れ込んだ、脚本家・橋部敦子の手腕が光る。

 そして、向田邦子や橋田壽賀子に次ぐ、ホームドラマの名手ともいえる橋部が紡いだ会話劇を展開していくのが、舞台『フェイクスピア』コンビの高橋と橋爪だ。俳優歴60年のベテランである橋爪が「ウマが合うって言うんですか。だいぶ年下ですけどね、なんか年齢のこと考えないで付き合えるんです」(※)と語るほど気兼ねのない二人の関係性が作中にも活かされており、航と星太郎のやりとりには“他人感”が一切ない。まさに阿吽の呼吸で繰り広げられる、緩急つけた好テンポなやりとりに顔がほころぶと同時に圧倒された。

 これだけで30分持つのではないかと思うほど、小気味好い二人芝居を見た後だからこそ、その後の悲劇が胸にズシンと迫る。航が作業場で倒れ、そのまま帰らぬ人となったのだ。死の間際に駆けつけた星太郎は航から「すまん」という謎が残る別れの言葉だけを受け取り、一人取り残される。半年後、以前よりも荒れた部屋が航の悲壮感を際立たせた。ぶっきらぼうに接してはいたが、父親でもあり、師匠でもある航の存在は星太郎にとって大きかったのだろう。精神的な支柱を失い、抜け殻のようになった星太郎を救ったのもまた航だった。

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