『Get Ready!』妻夫木聡が救う失われた30年 生き延びるべき命の意味は?

『Get Ready!』と失われた30年

 坊城や渋谷が体現するのは失われた30年で日本ができなかったことであり、ドラマや映画で繰り返し描かれたこの国のもう一つの未来だ。坊城の口を通して語られる「過ちに気付けば人はやり直せる」という言葉は、袋小路にはまって抜け出せない現状へのメッセージとして読み解くこともできる。本作が強調する生き延びるべき価値は、本来追求すべき諸価値を意味しており、その担い手は生き延びるべきという考えが底流にある。メタ視点からは、沈む一方の社会で無邪気に理想を投影できない現在において、かつてのようにドラマに希望を見出そうとする試みであり、日曜劇場的には原点回帰の動きと言える。AIが支援する手術室でエースが行うのが患部の外科手術だったことは、未来に向けて諸悪の根源を取り除くメタファーになっていた。

Get Ready!

 騒々しい意匠の裏で、『Get Ready!』には命を見つめる静謐な時間が流れているのも特徴だ。演出を手掛ける堤幸彦監督はトレードマークの小ネタを満載した情報量の多い作風に加えて、近年『悼む人』や『望み』などスクリーンを中心に生と死をテーマにした感情のひだをすくい上げる作品を世に送り出している。第2話冒頭で難易度の高いオペを成功させた医者リストで『医龍-Team Medical Dragon-』(フジテレビ系)の登場キャラを思わせる人名がまぎれていたりとギミックは相変わらずだが、患者役が本心を吐露する場面では打って変わってストレートに心に訴えかける演技を表出するなど、本作には異なる作風が同居している。緩急自在な演出は主人公であるエースの過去やチームの謎が明かされるにつれて、真の狙いが明らかになるのではないだろうか。

■放送情報
日曜劇場『Get Ready!』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:妻夫木聡、松下奈緒、日向亘、一ノ瀬颯、三石琴乃、橋本マナミ、當真あみ、結城モエ、中山麻聖、田野倉雄太、長見玲亜、矢島健一、片山友希、菅原卓磨、吉田涼哉、川本光貴、伊武雅刀、鹿賀丈史、藤原竜也
演出:堤幸彦、武藤淳、山本剛義
脚本:飯野陽子、山田能龍、川邊優子、金沢知樹、渡辺啓
プロデュース: 武藤淳、植田博樹、鈴木佳那子、市山竜次、佐井大紀
音楽:ノグチリョウ
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/getready_tbs/

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