『Get Ready!』妻夫木聡が命の価値測る闇医者に 偽悪の仮面は日曜劇場の壁を破るか
命の重さに差はあるのか。もしあなたが明日をも知れない身なら、大金を積んでも助かりたいと思うはずだ。また、命が平等であるとして、富めるものが貧しいものと同程度にしか助かる機会を得られないのはかえって不公平に思える。
日曜劇場『Get Ready!』(TBS系)は平等な命という幻想にメスを入れる。パティシエの波佐間永介(妻夫木聡)には裏の顔があった。第1話では永介の率いる闇医者チームが病に倒れた投資家の渋谷隆治(池松壮亮)を前に思案を重ねる。
天才的な腕を持つ外科医で通称「エース」の永介を筆頭に、オペナースの「クイーン」こと依田沙姫(松下奈緒)、国際弁護士の資格を持つ交渉人の「ジョーカー」下山田譲(藤原竜也)、ドローンやAR技術を操る万能ハッカーの白瀬剛人(日向亘)「スペード」が闇医者チームの構成メンバーだ。彼らは正体を隠しており、人前に出るときは仮面を着用。さしずめ医師版のアノニマスと言える存在だ。
エースは病に倒れた副総理の羽場(伊武雅刀)に「生き延びる価値がない」と告げる。法律で規定されているように、医師は患者から要請されれば診療を拒否できない。治療を拒絶できるのはエースが闇医者だからだ。「俺が救う命を俺が選んで悪いのか」とはエースの言葉で、堂々と命の選別を口にする姿にダークヒーローのオーラがにじむ。これだけ取ると、まるで手塚治虫の名作『ブラック・ジャック』のようで、妻夫木演じるエースの白髪交じりの風貌はかの天才外科医を彷彿とさせるが、ここからが本作のユニークな点だ。
命の選別から一歩踏み込んで、『Get Ready!』では救われるべき命という尺度が加わる。第1話の中盤から後半では、渋谷のエピソードを通じてこの点に光が当てられた。投資家の渋谷は表向きは困窮者支援など慈善事業に熱心だが、裏では中小企業が持つ技術を買いあさって海外へ売りさばくことで巨万の富を得ていた。それによって多くの人々が路頭に迷い人生を狂わされた。ジョーカーから渋谷の実像を知らされたエースは治療を拒否。死期を悟った渋谷は自らの過ちを悔いて、残された財産をこの国の未来を守るために使おうとする。その事実を知ったエースは手術を承諾し、渋谷を死の淵から救った。