『舞いあがれ!』“飛行機の音”に導かれためぐみの決断 柏木の言葉が舞の救いとなるのか

『舞いあがれ!』音に導かれためぐみの決断

 朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)は、舞(福原遥)がパイロットになる夢を叶えるために一歩ずつ進んでいく物語だと認識していたが、浩太(高橋克典)の「一歩ずつ進めばいい」という言葉をこれほどまでに意味のあるものとして描くとは、予想だにしなかった。

「靴があるのに、もういない」

 大切な家族を亡くした経験がある人にとって、これほど的確にあの時の気持ちを表してくれる言葉はないだろう。そんなラストで終わった第67話。第68話は、社長代行となっためぐみ(永作博美)の苦悩と決断が描かれる。

 喪に服す時間もない。社長代行となっためぐみは、すぐに銀行からIWAKURAをたたむことを勧められる。決断を迫られる中、周囲の人間が彼女を支えた。五島からやってきた祥子(高畑淳子)が言うように、常にそこにあるはずの“自分ができること”を探す舞。しかし、経理の古川(中村靖日)もすぐに就職先を見つけて転職してしまった。彼はずっと前から準備していたんだろう。

 判断力も高くて優秀だった古川が抜けてしまったことで、さらに状況が辛くなってしまっためぐみ。先代の時から工場を支えてくれていた笠巻(古舘寛治)に相談することにする。「会社を続けるんやったら私が社長やるしかない。それは無理やと思うんです」と吐露する彼女に、笠巻は浩太が工場を継いだ時のことを話して聞かせた。ネジも知らない奴が継いだって、1、2年でダメになると思ったけど30年も続いた。だから未経験のめぐみでも頑張ったらできると暗に応援しているように思えるが、それに続く言葉は「けどな、そないに頑張らなければ社長はまだ元気やったかもわからへん」だった。社長代行が自分に務まるとは思えないと思う彼女を励ましつつも、“頑張らなくてもいい”とも言ってくれただけでなく、浩太を失っためぐみの気持ちに寄り添っているのがすごく優しい。

「自分と舞ちゃんのこともよう考えて」

 その言葉を受け取っためぐみは、後日事務所で資料を確認しようとする。それを日付と項目順にまとめてくれる舞を眺めていると、めぐみは飛行機の音を聞いた。他のドラマなら、飛行機の音なんて大して意味のない雑音になるが、本作では大きな意味を持ってくる。その音が耳に届いためぐみは、もう一度舞の姿をしっかりと見つめ、先に笠巻に言われた言葉を思い出したはず。このまま工場を手放さない選択肢を取れば、舞が自分の夢を捨ててでも力になろうとすることを見こしたのだ。だから、逝ってしまった浩太のためにIWAKURAを残そうとしためぐみは、未来ある舞のために、IWAKURAをたたむ決断をする。悠人(横山裕)の助言の通り、今売れば何人かはそのまま残って働けるかもしれないし、子供に借金だって残さなくて済む。そんな周囲のためを思ったその決意の芽生えを、“背景の音”で表す点が素晴らしい演出だった。

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