『君の好きは無敵』が描く“好き”の恐ろしさ 幸せだけでは終わらない感情の正体

「好きなものって、とてつもなく大きいのよ。抱え続けていれば、必ず何かがこぼれ落ちるわ。あなた、そんな覚悟もなかったの?」
『君の好きは無敵』(TBS系)の第4話で飛び出したその台詞に、思わずギクッとした人は多いのではないか。個人的な話で恐縮だが、新たに推しができたばかりの筆者も釘を刺されたような気分になった。そうだった。「好き」は案外恐ろしい感情なのだ。
主人公である杏奈(松本若菜)には、麦(金田哲)という恋人がいる。杏奈から素直に「ラブ♡」と伝えられた麦が照れて、挙動不審な行動をとってしまうシーンが、本作ではお馴染み。交際歴5年とは思えないほど、2人はラブラブで、何ら問題はないように見えた。

ところが、ここにきて突如、杏奈は麦からフラれてしまう。原因は、杏奈が恋をしてしまったから。ただ恋といっても、相手は人ではなくキャラクター。瀬尾(佐野勇斗)が生み出したハイエナのキャラクターを一目見た瞬間、杏奈は「好き」に目覚めた。その子をヒットさせることに全力を尽くすあまり、麦からの連絡を放置してしまった。
麦は杏奈から自分に向けられていた愛情が減ってしまったことを悟り、寂しくなってしまったのだろう。そこに現れた別の女性に心が移り、杏奈に別れを告げる。ひどく落ち込む彼女に、たまたま出会ったMERRYのキャラクターデザイナー・門戸鞠子(白石加代子)がかけたのが、冒頭の台詞だった。
「好き」は基本的にハッピーな感情だ。実際、「好き」に目覚めた杏奈はハイエナの絵におはようと話しかけたり、お揃いのヘアスタイルで一人ミュージカルを繰り広げたりと、とてつもなく幸せそうだった。「何かを好きになるって、やっぱりいいな」と思わされた人もいるだろう。

一方で、本作が誠実なのは「好き」という感情の負の面も包み隠さず描いていることだ。何かや誰かを好きになると、人は時に損得度外視で色んなものを受け渡してしまう。例えば、時間。杏奈はハイエナを売り出すことに夢中で、今まで大事にしていた麦と一緒に過ごすプライベートな時間を無意識に手放してしまっていた。
その労力に見合ったギャラが発生しているならまだしも、瀬尾との契約は成果報酬だ。キャラクターがもしヒットしなければ、すべてが無駄になってしまう可能性だってある。そんな中で、自分が”やりがい搾取”をしている可能性に気づいた瀬尾はぬいぐるみの制作費を削ってギャラを支払おうとする。が、杏奈は受け取らなかった。
取引先の高井(尾美としのり)が法外に安いギャラで瀬尾に仕事を依頼しようとしたときは「好きの悪用は罪です!」と憤慨していた杏奈。MERRYを辞めた廣瀬(藤井隆)が「お金はいらないから」とぬいぐるみのパターン作成を買って出た際にも、断固として反対していたため、「やりがい搾取許すまじ」のスタンスは今も変わっていないのだろう。しかし、自分のことになると途端に冷静さを失う。ハイエナを売り出すにあたって雇ったアドバイザーたちにも自腹でギャラを払っていた杏奈は、瀬尾に「それのどこがこの子のためなんだよ!」と言われて初めて頭が冷えたようだ。




















