『岸辺露伴は動かない』の熱狂が帰ってきた! 「ホットサマー・マーサ」の巧みな実写化
そして、「ホットサマー・マーサ」のゲストとして登場するイブ(古川琴音)もまた露伴の見たことのない表情や仕草を引き出している。イブは露伴の熱狂的な大ファンで、動物病院で知り合い、露伴邸の庭に侵入してきてしまう。巨大なうさ耳に加え、腕にはヘビ、肩にはトカゲ(ムッちゃん)とペットたちを乗せている、彼女の見た目はインパクト大だ。
「露伴先生ェ〜ッ。ああ〜ッ! 先生、超大好きッ」と露伴に黄色い声をあげていたイブに、「藪箱法師」は“ピッチャー”となって近づいていってしまう。10月7日には露伴のベッドのシーツにイブがくるまっているような愛人関係に、そして1月7日にはすでにイブの腹の中には露伴との子供が――。自分のベッドで寝ているイブを見つけた露伴の慌てふためく姿もまたこれまでに見せてこなかった姿。そして、1月7日、イブに命の危険に晒される露伴もこのドラマ『岸辺露伴は動かない』では初めてと言っていいだろう。熱狂的なファン心理が狂気的な形へと膨れ上がっていったイブは、シリーズ最強であり、最恐であり、最狂であり、最凶とも言える敵。これまで露伴は六壁坂の妖怪や志士十五(森山未來)が取り憑かれた「くしゃがら」など、様々な「怪異」と対峙してきたが、イブはなんの能力も持たない生身の人間である。嫉妬心を抱いたイブは邸宅に上がってきた京香、さらに露伴までをも謎の注射器で息の根を止めていくのだ。
愛らしさと狂気性が同居した古川琴音の芝居に、彼女のキラーフレーズである「ズッとズッとズーッと」の言い回し、それを受ける緊迫感が張り詰めた高橋一生の瀕死の表情、〈愛してる〉と囁き声が聞こえる「菊地成孔/新音楽制作工房」によるフェミニンな劇伴と、一つひとつが作用しあい、愛憎入り混じるシリアスな超展開が繰り広げられていく。ここで露伴は「死」を覚悟するほどに追い詰められてしまうが、「ホットサマー・マーサ」の物語冒頭で「『死』や『死に至る苦痛』その『リアル』だけは確かめることができない」と話していたことが伏線になっているのはなんとも皮肉である。
露伴は「ヘブンズ・ドアー」でイブに「藪箱法師の鏡を左に三回回す」と命令し、「藪箱法師」のやらかしたことはリセットされた。イブが身籠もっていたのもこれで元に戻ったということだろう。イブは露伴から「藪箱法師」をおっかぶせられたことになるが、露伴は責任を持ってイブに「罪を犯さない」とも書き込んでいる。
複雑なストーリーとメッセージ性の強い「ホットサマー・マーサ」を見事に実写の表現に落とし込んだドラマ『岸辺露伴は動かない』。続く、本日12月27日にオンエアとなるのは、屈指の名エピソードとして人気の高い『ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない』からの「ジャンケン小僧」だ。「ホットサマー・マーサ」にも随所に散りばめられていた「3」という数字がこの3期全体を繋げる重要なキーとなる。
■放送情報
『岸辺露伴は動かない』NHK総合にて放送
第7話:12月26日(月)22:00:~22:54放送
第8話:12月27日(火)22:00:~22:54放送
出演:高橋一生、飯豊まりえ、古川琴音(第7話ゲスト)、柊木陽太(第8話ゲスト)
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
演出:渡辺一貴
制作統括:斎藤直子、土橋圭介、ハン サングン
制 作:NHK エンタープライズ
制作・著作:NHK、ピクス
写真提供=NHK