宇野維正の興行ランキング一刀両断!
「現象化」にはならず 『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の興行が突きつける問題
各劇場にとって、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のプレミアムフォーマットでの上映は、観客単価が高いというポジティブな面がある一方で、3時間12分という上映時間の長さから1日の上映回数が限られる、あるいは他の作品の上映に影響が出るというネガティブな面もある。その二つを天秤にかけて、上映回数を減らす方向で検討するのは仕方ないのかもしれないが、そのことによって『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の口コミによるロングヒットの芽は完全に摘まれてしまうことになる。
どっちがいいかという問題ではなく、普通の環境で観られる2時間前後の国内アニメーション作品の鑑賞体験と、プレミアムフォーマットの環境で観られる3時間12分の3D作品、特にハイ・フレーム・レートによる上映の鑑賞体験は、同じ「映画」という枠組にあるのが不自然に思えるほどまったく異なる体験だ。プレミアムフォーマットのスクリーンのために少なくない設備投資の負担をしてきた劇場は、ここで簡単に『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を諦めてしまうと、長期的にはこの先のハリウッド大作の潜在的な観客を失うことにもなりかねないのではないか。
「3D作品を観ること」が現象化&イベント化して、累計興収156億円を記録した13年前の『アバター』のような興行は、今回再現できなかった。海外での興行についてはもうしばらく経緯を見守る必要があるが、少なくとも日本国内の観客の嗜好や行動原理は、この13年で大きく変わったのだろう。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の興行が突きつける問題は多岐にわたっている。今後も引き続き取り上げていく予定だ。
■公開情報
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
全国公開中
監督:ジェームズ・キャメロン
出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバーほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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