不倫ものを超えた愛憎劇『夫婦の世界』 キム・ヒエが巧みに表現する複雑な心理描写

不倫ものを超えた愛憎劇『夫婦の世界』

 それは一本の長い髪の毛から始まったーー。2020年に韓国で社会現象を巻き起こした大ヒット作『夫婦の世界』。12月4日から日本でもNetflixで配信中で、配信されるやいなや連日TOP10ランキング上位入りを果たしている。(12月18日時点)

 本作は、韓国ケーブルドラマで『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』や、『SKYキャッスル』を超えて、史上歴代最高視聴率を叩き出したメガヒット作品だ。原作は、イギリスのBBCで放送された人気作品『女医フォスター 夫の情事、私の決断』。オリジナルシーズン1と2を全16話にまとめ、さらに韓国版として新たなストーリーを取り入れて、ラブサスペンスヒューマンドラマに仕上げている。オリジナルをさらに掘り下げた脚本と演出で韓国ドラマが得意とする、「人間の持つ複雑な感情や黒化した姿、本人も気づいていなかった裏側にある心理描写」が秀逸で、単なる不倫ものを超えた人間ドラマになっているのだ。

 物語は、富と名誉を持ち、愛する夫と息子に恵まれた女医チ・ソヌ(キム・ヒエ)が、夫イ・テオ(パク・ヘジュン)の浮気を疑うところから始まる。出張から帰った夫と熱い夜を過ごしたソヌは、翌日の朝、夫のコートから転がり落ちる赤いリップを見つける。「機内が乾燥していたから」と答える夫を疑うこともなく、夫に借りたマフラーを身に着け出勤したソヌは、診察室でマフラーに絡みつく茶色に染めた長い髪を見つけて不審に感じる。そこからソヌは、“茶色い長い髪”のことが頭から離れなくなり、夫の周りにいる染めた長い髪の女性たちを疑いだす。

 転がり落ちたリップ、一本の長い髪、仲良し夫婦を見せられた視聴者たちは、主人公ソヌと一緒に疑心暗鬼に囚われ始める。ソヌが夫テオの尾行をするところにハラハラし、浮気相手がヨ・ダギョン(ハン・ソヒ)だとわかる第1話ラストで主人公とともに驚愕する。知的で美貌を誇るソヌが、疑心暗鬼に浮気相手かもしれないと疑う相手は、自身と変わらぬ既婚女性ばかりなのだ。

 しかし、夫の浮気相手は美貌に溢れた若いダギョンであった。(本作でソヒは大人気となり、オファーが殺到したのも納得の美貌で、彼女に感情移入して、同情してしまうぐらい魅力的にダギョンを演じた)それを知ったときのソヌの青天の霹靂ぶりが、画面のこちら側にいる視聴者の心も驚きと悲しみに満ちる表情演技が見事だ。ソヌの驚愕と強烈な悲しみが伝わり、目が離せなくなる。

 「不倫もの」を観る時の醍醐味は、3つに分かれるのではないだろうか。まず最初に不倫相手が配偶者にバレるまでのハラハラ感。ふたつめに、バレたあとのサレ側の苦悩と不倫カップルの能天気なまでの不倫世界への陶酔と、その後に突き落とされる地獄の始まりを期待する展開。最後に、頂点である大修羅場での、サレ側の復讐や夫婦の別れか再起の選択。しかし、『夫婦の世界』が描いたものは、違うのだ。テオの浮気により、ソヌとテオ夫婦は破綻してしまう。そこまでの流れも、終始緊迫しハラハラドキドキの展開で息つく間もなく観てしまうのだが、そこからさらに本作はヒートアップしていく。

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